Archive for the ‘Voice’ Category

ピーター・バラカン A Taste of Music Vol.09

“いい音楽とは?”、“いいライヴとは?” A Taste of Musicは、音楽の伝道師ピーター・バラカンさんが素敵なオーディオ空間を訪ねながら、自ら選りすぐった音楽の魅力をライヴやレコードの聴きどころとともにお届けするWebマガジンです。

◎Featured Artist

◎Featured Albums

◎Coming Soon


Introduction

2015年1月27〜29日、初の来日公演に臨んだベッカ・スティーヴンズ。写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

Becca Stevens Band
アクースティック楽器を巡る新しいアプローチ

今回のA Taste of Musicは銀座にあるリンのショールーム「LINN GINZA」からお届けします。ところで僕は先日、とても面白いライヴを観ました。東京・丸の内のコットンクラブで、1月の終わりに行われたベッカ・スティーヴンズ・バンド。これがとても良かったんです。僕は普段から一つのジャンルでは括れないようなミュージシャンに興味を持つんですが、色々なレヴューなどを見ていると彼女が各方面から注目されていることを知って、一つ前のアルバム『無重力』を聴いてみたらとても面白くて、いい意味でとらえどころがないミュージシャンだと思いました。そして、2014年に出たアルバムが『パーフェクト・アニマル』なのですが、これがもう、かなりヘンなんですよ(笑)。1曲目の「アイ・アスクド」は、どこか陽気なチャランゴの響きと、思い切りダークなリズムが不思議と上手くブレンドされています。メロディも止まったり始まったり、はっきりしなくて、歌詞も続いているという感じはない。ずいぶん変わった曲なんですが、でも不思議と聴きやすいんです。

ライヴでは、彼女がギターとウクレレとチャランゴを弾いて、あとはピアノ/アコーディオン、ウッド・ベース、ドラムズという編成でした。基本的にアクースティックな感じの音楽で、ドラマーは最初は抑え気味に演奏していたけれど、途中からはけっこう大きい音で叩いていました。たぶん、彼女自身がビート感をもっと強調したかったのでしょう。またベイシストとキーボード奏者は歌も上手で、3パートのハーモニーをとてもきれいにこなします。あんな変わった構成の曲でここまで上手にハモるなんて大した集中力と演奏力だなと感心しました。ライヴで観られた彼女の可愛らしいキャラクターもよかったですね。

コーラスも含め、バンドとして素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれた。写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

今、ニューヨークには彼女のようにちょっと変わった音楽を作るミュージシャンがちょこちょこ登場していて、古典的なブルーグラス編成の5人組、パンチ・ブラザーズもその一つで、彼らもベッカ・スティーヴンズ・バンドと同じく、アクースティック楽器を主体にしてかなり変わったことをやっています。たぶん、僕を含めて聴く側には、アクースティック楽器と言えば自然体で弾くものだという先入観があるのかもしれません。ちなみに、矢野顕子さんもパンチ・ブラザーズが大好きで、ニューヨークではライヴをよく観ているそうです。


[Featured Artist]

D’Angelo

14年の沈黙を破ってついに新作をリリース

さて今回のFeatured Artistは、最近新作を発表した二人のミュージシャン、ディアンジェロとダイアナ・クラールを取り上げたいと思います。

ディアンジェロは、とても話題になったセカンド・アルバム『ブードゥー』を2000年に出してから、全く音沙汰がありませんでした。次のアルバムについては時々、噂が流れたり、1曲分のブートレグが出回ったりしたそうですが、正式な発売は何もなし。2014年の12月に3作目となる『ブラック・メサイア』が突然出るまで、14年もかかってしまいました。最初に『ブードゥー』を聴いたとき、僕は彼のことを独特の世界を持った人だと思いました。2000年と言えば、ヒップホップもまだ全盛の頃で、そういう要素を持ちながら、昔のファンクの良さも感じられる。そうした両方の感覚が合わさっていて、さらにちょっとジャジーなところもあったりと、やや得体の知れない人物という印象もありました。ジャケットがコワいので、ちょっと距離を置きたくなる感じは若干ありましたが(笑)、音楽的にはとてもカッコいいレコードでした。ちなみに今回のジャケットからは、世の中を今変えなくてはという政治的なメッセージが伝わってきます。

Diana Krall

彼女に興味を持ったその理由

ダイアナ・クラールは最初、いわゆるジャズ・スタンダードを歌っていることが多かったですよね。その分野に、それほど興味のない僕は、「確かに上手だけど、まぁ、あまり用はないかな」と思っていたんです(笑)。でも、2003年にエルヴィス・コステロと結婚して、彼が制作に関わるようになってから選曲がすごく面白くなってきました。モーズ・アリスンやジョーニ・ミチェルの曲を取り上げるようになったことでまず興味が湧いてきました。

今回の試聴空間はLINN GINZA。
しかも、マーク・リーボーなど、いつもとは違うミュージシャンが起用されていたりして、微妙に雰囲気が変わったあたりから「ダイアナ・クラールっていいなぁ」と思うようになり、遡ってライヴ・アルバムなんかも聴いてみたらそれもなかなかいい。一つ前の、彼女がジャケットで下着姿になっているアルバム『グラッド・ラグ・ドール』(2012年)では、古いアメリカーナを歌っていますが、あれも選曲に意外性があって面白かったですね。ますます間口が広い人だなと思いました。そうしたら、今度は実に意外な変化球でした(笑)。


[Recommended Albums]

D’Angelo and the Vanguard『Black Messiah』

ヴィンテージ機材を駆使した録音にも注目
『ブラック・メサイア』
ソニー SICP-4398

まず、ディアンジェロの最新作『ブラック・メサイア』から「ティル・イッツ・ダン(Tutu)」、「ビトレイ・マイ・ハート」と2曲を聴いてみましたが、かなり格好いいですね。CDのブックレットによると今回の録音はアナログで、それもできるだけヴィンテージの機材を使って録ったということがわざわざ書かれています。彼は90年代の半ばにデビューした人ですから、活動開始からぼちぼち20年になるんですが、いわゆるアナログ世代ではないでしょう。そんな彼の音楽からは初期のプリンスや、70年代のスライ&ファミリー・ストーンといった往年のファンク・ミュージックからの影響がすごく感じられます。 今どき、ちょっと珍しいタイプのミュージシャンかもしれません。楽器はいろいろこなすらしく、クレジットを読むとキーボード類はほとんどが彼自身の演奏です。ベースは、有名なセッション・ミュージシャンのピノ・パラディーノがほぼ全面的に演奏しています。また、ザ・ルーツのクエストラヴやジェイムズ・ガッドスンらがドラムズで参加するなど、一流どころを起用していますね。ミックスのやり方は、どこかスライ&ファミリー・ストーンを思わせるような、あえてクッキリとはしない、ちょっとぼやかしたような音になっています。とは言え、バランスはすごくいい感じに仕上がっています。「ビトレイ・マイ・ハート」で聴けるホーン・セクションの音なんかも、すごく気持ちがいいですね。

Diana Krall『wallflower』

最新作は有名ポップスのカヴァー集
『ウォールフラワー』
ユニバーサルUCCV-1150

続いて、ダイアナ・クラールの『ウォールフラワー』を聴いてみましょう。アルバム・タイトルは、本作でも取り上げているボブ・ディランの曲名で、1曲目はいきなりママス&パパスの「夢のカリフォルニア」。そう、本作はなんと、ほぼ全編が有名ポップ・ソングのカヴァー集となっているんです。2曲目は「デスペラード」なんですが、彼女がこんな曲を歌うとは思いませんでした。今回、彼女がピアノを弾いているは3曲くらいしかなくて、他の曲ではプロデューサーのデイヴィッド・フォスターがオーケストラを編曲したり、ピアノを弾いたりしていますが、とても丁寧に作られていると感じました。

こういうヒット曲ばかりをカヴァーしたアルバムはいくらでもあって、たいがい僕は興味を持てないんですが、この作品は本当に良かったです。10ccの「アイム・ノット・イン・ラヴ」とか誰もが知っている曲も、彼女が歌うとどこか違って聴こえる。基本的にはジャズの世界の人がそういう感性で歌うと、とても新鮮味があるんです。そのほか、ニュージーランドのグループ、クラウデッド・ハウスが1986年にヒットさせた「ドント・ドリーム・イッツ・オーヴァー」、そして、A Taste of Music Vol1でも紹介したジョージィ・フェイムの「イェー・イェー」もカヴァーしていて、この曲では本人とのデュエットが聴けます。ジョージィ・フェイムのことは、エルヴィス・コステロも大好きだから、そういうつながりなのかもしれません。


ダイアナ・クラールの新しいアルバムは、選曲にびっくりすると同時に一発で好きになり、このところよく聴いています。本当によくできたアルバムです。来年のグラミーで、何らかの賞を獲るかもしれません。デイヴィッド・フォスターは、どちらかというとすごくポップなイメージがあるんですが、彼は彼女と同じくカナダ人で、そんなことから彼女のレコードをいつか手がけたいと思っていたらしいです。そういえば、ゲスト・ミュージシャンとして参加しているマイケル・ブーブレ、ブライアン・アダムズもカナダ人ですね。


[Coming Soon]

20年ぶりの来日! 注目のサポート・ギタリストとは?

Crosby, Stills & Nash 2015 TOUR

東京◎3/5 thu , 3/6 fri(東京国際フォーラム ホールA)/大阪◎3/9 mom(フェスティバルホール)/福岡◎3/10 tue(福岡サンパレス ホテル&ホール)/名古屋◎3/12 thu(名古屋市公会堂)

CS&Nが20年ぶりに日本へやってきます。今回のComing Soonは、ぜひ彼らを取り上げたいと思います。まずは彼らのファースト・アルバム『クロズビー・スティルズ&ナッシュ』から「木の船」を聴いてみましょう。これが45年前のレコードだとはとても思えないほどいい音ですが、当時の僕にとってもこのレコードはめちゃくちゃ衝撃的で、今もCS&Nと言えばこのアルバムなんですよ。彼らの特徴と言えば、このハーモニー・ヴォーカルですが、それはしかしビートルズやバーズ、ホリーズもやっていたし、当時の他のグループにもそれなりのものはありました。僕は何より、曲そのものに良さがあると思っています。このアルバムが出た1969年の前後には、ジョーニ・ミチェルやジェイムズ・テイラーがデビューして、ぼちぼちシンガー・ソングライターの時代へ移行していきます。CS&Nもそういうタイプの曲を作っていましたが、それはポップとロックの中間とも言うべきもので、それまで聴いたことがないような音楽でした。加えて、あの3人のハーモニー・ヴォーカルですからね。いまや彼らはポピュラー音楽の古典の一つだから想像しづらいかもしれませんが、この作品が出たときは、本当にものすごい衝撃だったんです。

僕も彼らのライヴはまだ観たことがないので、今回の来日はとても嬉しいです。CS&Nはレコードの場合、例えばファースト・アルバムではほとんどの楽器をスティーヴン・スティルズが演奏しています。彼のことは当時、このレコードを聴いて初めて知ったのですが、とにかくすごいミュージシャンがいるなと思いました。ただ、ライヴとなると彼一人だけではできません。そこで、必要となってくるのがサポート・ミュージシャンたちなのですが、ここ数年、CS&Nのライヴ・ツアーに、たまたま僕の弟、ミック・バラカンがギタリストとして起用されています。ミュージシャンとしては、“シェイン・フォンテイン”(Shane Fontayne)と名乗っています。今度の来日公演にも、もちろんやってきますからとても楽しみです。

『クロズビー、スティルズ&ナッシュ』ワーナー WPCR-15252

弟のミックは、僕と同じ世代だから60年代のイギリスの音楽をすべて体験していて、ギタリストとして活動を始めた頃は普通のロックの仕事が多かったのですが、わりと早くからカントリー・ロックに傾倒していきました。それにはたぶん、CS&Nの影響もあったと思います。ただ、70年代前半のイギリスでは、CS&Nを除けば、カントリー・ロックは決してメインストリームではありませんから、仕事はそれほど多くはなかったようです。僕が日本に来たのは1974年ですが、ミックはその後、76年にアメリカへ渡り、かれこれ40年、ずっとミュージシャンを続けています。その間、いろんなミュージシャンのバッキングを務めてきましたが、マリア・マッキーがリード・ヴォーカルだったローン・ジャスティスには一時期、メンバーとして在籍していました。ちなみに、このグループのレコードをプロデュースしたのはジミー・アイヴィーンで、後にヒップホップ・レーベルのインタースコープを作った人ですが、ミックは彼の紹介で、ブルース・スプリングスティーンが1992年に『ヒューマン・タッチ』と『ラッキー・タウン』という2枚のアルバムを出した時のツアーに参加しました。これをきっかけに注目され、充実した仕事もちょこちょこ巡って来るようになったようです。CS&Nの来日公演では、シェイン・フォンテインのギターにも、ちょっと注目してあげてください(笑)。

PB’s Sound Impression

「どこかアットホームで上品な音。自然体な感じもいいですね」

この日、バラカンさんとの試聴をサポートしてくれたのはリンの最新モデル「AKURATE EXAKT」。音の入り口はもちろん、出口となるスピーカーの中に至るまでのすべてをデジタル伝送とすることで、歪や音楽情報の欠落を極限まで排した画期的なオーディオ・システムです。今回フィーチャーしたCDはリッピングで、また、同社の創業40周年を記念して制作されたスペシャル・コンピレーション『Linn 40th Anniversary Collection』(リン・レコーズ)から、イアン・ショウやエミリー・バーカーらの“Studio Master”と呼ばれるハイレゾ音源(24bit/192kHz)もじっくりと試聴。リン・レコーズと言えば、ブルー・ナイルの作品を思い出すというバラカンさんは、「AKURATE EXAKT」の音をどう聴いたのでしょうか。

「リンの音って、これまでもインターナショナル・オーディオショーなどで大きなシステムで聴いていて、かなりインパクトの強いイメージを持っていたんですが、今日のサウンドはすごく自然体な感じでした。特別な主張があるわけでもなく、どこかアットホームで、しかも上品な印象。あたりも柔らかで、ヴォリュームを下げてもよく聴こえるし、上げてもうるさくなりません。会話の邪魔にもならなそうです。広めの部屋で聴いても、きっと気持ちいいでしょうね」

システムの技術的な解説には「まるでSFのようだね」と言いながら、使用する部屋のサイズやリスニング・ポイントなどの情報を数値化して入力することで定在波を取り除くなど、試聴環境に合わせた最適なサウンドを実現する「EXAKT」の音質的な特徴を見事にとらえてくれました。

「AKURATE EXAKT」のヘッド・ユニットとして機能するネットワーク・プレーヤーAkurate Exakt DSM。フォノ入力(MC/MM)も装備している。
外観も美しいExakt Akudorik。4wayスピーカーを乗せるスタンドには、各ユニットをダイレクトに駆動する4ch分のパワー・アンプを内蔵する。
音源の選択や再生は、iPadにインストールされたアプリ「Kinsky」で快適に行える。

今回のリスニング・システム

「AKURATE EXAKT」のシステム構成:Akurate Exakt DSM(デジタルストリームプレーヤー+マルチインプット・ステレオプリアンプ)、Exakt Akudorik(アンプ・モジュール搭載スピーカー・システム)

A Taste of Music Vol09の舞台となったLINN GINZAは、東京・銀座の並木通りにある素敵なショールーム。
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vol.06 角田郁雄先生

“アーティストの情念までも再現するLINN KLIMAX DSの魅力 —背景にある技術と音楽再現力”

KLIMAX DS導入のきっかけ

私は、2005年ころから、積極的に、ハイレゾ再生の魅力をアピールしてきた。
録音にも携わってきたこともあり、当時、スタジオ仕様のデジタルインターフェースとMacを組み合わせた装置で、CDリッピングの音や、まだ数の少ないハイレゾ音源を再生した。業務用の機器なので、おおよそオーディオルームには似合わない姿。
それでもハイレゾ音源は魅力だった。
その後、2007年の暮れに、LINNからKLIMAX DSというネットワークプレーヤーが登場。いち早く、私はその音に触れることができた。

技術的にはデジタルプレーヤーのコアとなるマスタークロックの精度やNASを使用し、プレーヤーもネットワークに接続するという斬新な方法にも、オーディオの未来を感じ、興味津々であった。私はファイル再生で、重視しているのは、一番聴く機会の多い、CDフォーマットである44.1kHz/16bitの音が良いことである。
しかも、レコードに近い、豊かな倍音が聴けることである。
この条件が満たされなければ、88.2kHz/24bit以上のハイレゾ音源の音質に期待が持てないはずだと考えた。
DA変換精度の高さが関係してくる。
当時、このDSプレーヤーで、CDリッピングした音を再生して、驚嘆したのは、空間表現に優れ、音像の輪郭が明瞭で、倍音豊かな音質が得られたことであった。聴き慣れたCDを新たにリマスターしたかのような音の鮮度の高さも格別であった。これは、レコードから深い陰影までも再現する、愛用のSONDEK LP12の音質にも似ていた。試聴の結果、私はいち早く、導入を決定。もちろん、アップグレードしながら、現在も愛用しているのである。

独創的な技術

私は内部技術を探ることも好きである。導入の決め手でもあったので、ここで少し技術の説明もしておこう。私のアプグレードモデルは、現行のKLIMAX DS/Kと全く同様。内部では、独自のプログラムを投入したFPGAによるデジタル処理部を従来モデル以上に進化させ、超高精度マスタークロック1個が、入力されたデジタル信号のサンプリングレートに対応する高精度クロックを生成。入力されるデジタル信号をこれに同期させ、完全にジッターを排除している。次のステップとして、この高精度クロックに同期した全てのデジタル信号を384kHz/35bitにアップサンプリングし、ほんのわずかな伝送上の歪みをも排除し、高精度なDA変換を行う。これが、一連の流れである。書いてしまうと、簡単のように思われるが、内部を観察すると、DSプレーヤーには究極のデジタルエンジンが搭載されていることが、理解できるのである。

pic02

またパソコンのLINN KONFIG画面を開くと、愛用のDSプレーヤーの種設定が可能である。例えば、インサーネットコネクターで点滅するLEDは、わずかながらも音質を劣化させるので、その点滅をOFFにできる。付属のリモコンも使わないなら、不要なリモコン回路をOFFにできる。
RCA出力とXLRバランス出力のどちらを、優先に使うのか、これも設定でき、最高の状態で、アナログ出力ができる。

こんなデジタルプレーヤーが過去にあったであろうか。
他では類を見ない高音質へ配慮が、されているのである。
私は、もう5年ほど、このプレーヤーとつき合ってきているが、もう一つの特徴は、ファームウェアのアップグレードにより、使い勝手が良くなるばかりではなく、音質も向上したことである。
LINNは決して、ここを良くしたなどと公表しないが、おそらくFPGAを使ったデジタルフィルターのアルゴリズムなどを変え、音を進化させたに違いないと推察している。常に進化するプレーヤーなのである。

またパソコンのLINN KONFIG画面を開くと、愛用のDSプレーヤーの種設定が可能である。例えば、インサーネットコネクターで点滅するLEDは、わずかながらも音質を劣化させるので、その点滅をOFFにできる。付属のリモコンも使わないなら、不要なリモコン回路をOFFにできる。
RCA出力とXLRバランス出力のどちらを、優先に使うのか、これも設定でき、最高の状態で、アナログ出力ができる。
こんなデジタルプレーヤーが過去にあったであろうか。
他では類を見ない高音質へ配慮が、されているのである。
私は、もう5年ほど、このプレーヤーとつき合ってきているが、もう一つの特徴は、ファームウェアのアップグレードにより、使い勝手が良くなるばかりではなく、音質も向上したことである。
LINNは決して、ここを良くしたなどと公表しないが、おそらくFPGAを使ったデジタルフィルターのアルゴリズムなどを変え、音を進化させたに違いないと推察している。常に進化するプレーヤーなのである。

独創的な技術に支えられた、ずば抜けた音楽再現力

こうした技術により、AACやMP3といった圧縮音源までも、CDクォリティーに迫り、CDリッピングの音も、24bitのハイレゾ音源に劣らぬ、自然な音の階調を示すハイレゾ的な音質へと進化した。例えば、ピアノの音の消え入るところなど、弱音に耳を傾けてみて欲しい。音が消え入るまで、透明で、美しさが維持されていることが分かるはずだ。微弱な音の再現性が素晴らしく、これが音楽に深みを与えてくれる。さらに、こうした、微弱な音は、例えば、マイルス・デイビスの鮮やかなトランペットの響きにも加わり、ベル(ホーンの部分)の響きが、より鮮やかになり、空気の流れまで見えるような、躍動感ある演奏を聴くことができるのである。ちなみに、私は夜、照明を消して、名演奏、名録音のCDリッピング音源を聴くことが多い。そこにあるのは、オーディオを忘れさせ、眼前に展開される生々しい演奏だけである。録音した場所、時間へワープした思いがするのである。
ハイレゾ音源が増えているとは言え、80年、90年代の往年のCDアルバムを聴く機会はまだ多いはずだ。こんな思いにしてくれるのが、DSプレーヤーだ。
さらに、ハイレゾ音源を聴けば、楽器や人の声が、さらにリアルな再現となる。私が若かりし頃聴いた、リンダ・ロンシュタットのWhat’s New。きめの細かい、絹糸をひくようなストリングス、鮮やかで輝くブラス、静かなドラムのブラシ、音楽をしっかり支えるベース、その中央に、ストレス無く、抜けるようなリンダ・ロンシュタットの声が聴ける。まさに、これはアナログマスターを聴く思いである。カーリー・サイモンのYou’re So Vain。これもなかなか、今まで、いい音で聴くことができなかった曲だ。これも、DSプレーヤーを通して聴くと、さらにその解像度の高さゆえに、楽器の立ち上がりや倍音を引き立ててくれる思いがする。カーリー・サイモンの声にも厚みを感じさせ、そのリアリティーが前面に表れる。奥行き感も良く表し、バックボーカルとの対比が素晴らしい。
DSプレーヤーは、先に述べた独創的技術により、単に高音質化だけに、とどまることなく、音楽に内包されたアーティストの演奏の姿までも、空間に実在するかのように描くところが凄いのである。弱音から強音まで躍動感をもって表す、高いドライブ力もデジタルプレーヤーとして、大きな魅力である。
この素晴らしい音楽再現力は、DSMシリーズへも、洗練されたKIKO DSM システムにも生かされている。
ぜひとも、この音楽表現の深さを一度、体験して欲しい。
きっと、どのモデルも、洗練されたデザインゆえに、所有の喜びまで、感じてくれることだろう。長く愛用できること。これはレコードプレーヤー、SONDEK LP12が証明してくれている。

LINN DSプレーヤー使い方の工夫など

リンジャパン:「どんな音楽ジャンルが好きですか。」

「小さいころから、いやって言うほどクラシックを聴かされまして、今でもクラシックが中心ですが、その他に若かりし頃、好きだったロックやジャズも聴きます。最近のEMI クラシックスやワーナーのハイレゾ音源は良いですね。CD リッピングですが、ジャズでは、マイルス・デイビスやBlue Note のアルバムが好きですね。LP も聴いています。
現在は、4TバイトのNAS と4TバイトのバックアップNAS、試験的にSSD NAS を使っていますが、そろそろ増設しないといけないなと思っています。」

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リンジャパン:「何か、DS再生で、こだわりの工夫をされていますか。」

「私は、ハイエンドなスタジオに行く機会もあり、部屋は、その設備仕様に近い再生環境になるように工夫しています。仕事がら、色々な機器をテストしますし、DSプレーヤー再生でも、歪み感のない、その場で生演奏しているような躍動感あり、透明度の高い音質を求めます。

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まず大切なのは、電源です。純アナログ方式のクリーン電源を使用しています。電源の歪みもゼロ近いですから、機器本来の音が発揮されるようで、ドラマティックに音質が向上します。
次が、アースです。私の環境では全機器の電源アースをとると、音場がやや狭まった感じがするので、やめました。たぶん、アースがループしたためと推定しています。
いろいろと実験した結果、DSプレーヤーをアース接続できるオーディオボードにセットし、部屋の床下点検口の直下に5本のアース棒を打ち、これにもアースしています。
LP12の電源もこれにアースしています。

他の再生機器も使いますので、プリアンプの筐体もアースしました。つまり、DSプレーヤーとプリアンプを壁の医療用アース端子に一点アースです。
DSプレーヤーは音源を再生する最上流の機器ですから、インピーダンスの低いアースは、微細なノイズを排除し、より透明度の高い音質が期待できます。
結果として、私の環境では、電源とアースは成功しているのではないかと思います。
深く沈み込む弱音再現がたまりません。
ノイズフロアーが下がったイメージで、密度と繊細さが増大し、ハイレゾ音源はもちろん、CDリッピングでも、ほとんど、DSDに酷似するサウンドとなりました。たぶんFPGAによる354kHz/35bitのアップサンプリングの効果が、さらに発揮されたと実感しています。

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ちなみに、マンションなどで、アースがとれない方には、機器とアースがとれて、ノイズを低減するボードも発売されているので、一度借りて、効果を確かめても良いのではないかと思います。
参考までですが、DSプレーヤーからパワーアンプまで、全段バランス接続で、ラインケーブルは単線です。
透明度の高い空間、倍音豊かなリアリティーある演奏を求めると、今のところ、シールドされた単線ラインケーブルが良いかなと思っています。
こんなところでしょうか。

リンジャパン:「今までのコンポーネントと同様に環境に合わせた使いこなしが大切ということですね。
         貴重な研究結果を皆伝して頂きまして有難うございました。 」

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vol.05 山本浩司先生

“もう完全にクライマックスDSで聴くデジタルファイルの圧勝だった“

2008年初夏にクライマックスDS( 現在はDS/K) を自室に導入してから約5年。ほぼ毎日このネットワークオーディオプレーヤーを稼働させ、楽しいミュージックライフを送っている。

 2007年秋、「東京インターナショナルオーディオショー」のリン・ブースで、DSはわが国に初お目見えしたわけだが、最初そのコンセプト、概要を聞いてもあまりピンとこなかった。確かにそこで演奏されていたクライマックスDSのサウンドはとてもすばらしいものだったけれど、CDを聴くのになんでわざわざパソコンでリッピングしてNASに貯めて聴かなきゃならないんだろ?  そんなメンドクサイことなしに、ふつうに気に入ったCDプレーヤーで聴けばいいと思うけどなあ、というのが当初のぼくの正直な感想だったわけだ。

そんなぼくの反応( 当時のオーディオマニアのほとんどが同じ反応だったと思う) に、リンジャパンのスタッフから「では一度ヤマモトさんの部屋でクライマックスDSのデモをやりましょう」との申し出が。そこでぼくのリスニングルームに簡易的にネットワーク環境を構築し、何枚かのCDをリッピングした音源やリンレコーズから配信されているスタジオマスター音源を聴かせてもらう機会をいただいた。それが2008年の春のことだった。

NAS に取り込んだCDをクライマックスDSで再生すると、ぼくがそれまで愛用していたCDプレーヤーシステム( クロックジェネレーターや単体DAC を加えて自分なりにチューンナップしたもの) を超える安定感のある音が聴け、なるほどディスクを高速回転させながら、データ読み出しと再生を同時に行わなければならないDISCプレーヤーの音質的限界ってあるのかもしれない……という気にもなった。しかし、ぼくにとって決定的だったのは、クライマックスDSが再生するリンレコーズのスタジオマスター音源「drawn to all things/イアン・ショウ」(48kHz/24 ビットFLAC) の音を聴いたことだった。

ぼくはこのアルバムのSACDを持っていて、その聴き比べを行ってみると、もう完全にクライマックスDSで聴くデジタルファイルの圧勝だったのである。音像の安定感、描き出される音場のカンバスの大きさ、スタジオの空気感の再現、すべてに渡ってクライマックスDSのファイル再生が勝っていて、その違いの大きさはまさに衝撃だった。

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オーディオ環境

音楽ファンの憧れ「スタジオマスター」が自室で聴けるヨロコビ。ここにオーディオの未来があると確信したぼくは、このネットワークプレーヤーでとことん高音質を追求してみたいと考え、クライマックスDSの購入を決意した。確かにその価格は気軽にぽんと買えるものではなかったけれど……。

2008年当時、CDフォーマットを超えるハイビット・ハイサンプリングのハイレゾファイル配信を行っていたのは、リンレコーズの他、HD Tracks などほんの少しの海外インディペンデント系レーベルだけといっていい状況だった。しかし、2009年には日本を代表する独立系クラシック音楽レーベル、カメラータトウキョウの音源をハイレゾ配信するHQM ストアが設立され、その後、2005年からDRM(著作権保護管理) 付のWMA ロスレスでハイレゾ配信を行っていたe-onkyo music が、DRM をはずしてWAV やFLACファイルでの配信を開始、昨年からはワーナーミュージックやユニバーサルミュージック、ビクターエンタテインメントといったメジャー系レーベルを有するレコード会社( という言い方もヘンな感じになってきたが) の音源がDRM フリーで配信されるようになった。また、いっぽうで日本の先進的なミュージシャンの音源を48kHz/24ビットPCM ファイルとDSD ファイルで同時配信しているポップス系音楽配信レーベルototoyの動きも見逃せない。

そう、聴きたい音楽のハイレゾファイル配信がこの1 ~2 年で劇的に増えてきたわけだ。こういう音楽聴取環境の変化をみるにつけ、その動きをいち早く予測し、SACD/CD プレーヤーの開発・販売を取りやめ、ソース機器をDS一本に絞ったリンの炯眼に改めて驚きを禁じ得ない。

そんなわけで、気になるアーチストの新作や昔懐かしい名盤などがばんばんハイレゾ配信されるようになり、高音質音楽配信サイトからのお知らせを目を皿のようにして眺めている今日この頃だ。もちろんCDをまったく買わなくなったわけではないけれど、今もっとも自室で聴いていて楽しいのは、クライマックスDS/Kで再生するハイレゾファイルとLP12SE11で再生するアナログレコードであることは間違いない。

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“PCオーディオ に比較すると、やはりDSの使いやすさと安心感は途轍もなく大きい”

クライマックスDS(/K)を5 年間使い続けてきて、深く感じ入っていることがある。それが「成長するオーディオ機器」という側面だ。これまでに本体ファームウェアを幾度となく更新して性能と機能・操作性を向上させてきたし、ハード面でも2009年に新電源回路基板として高速給電能力を持つ「ダイナミック・パワーサプライ」が登場、そして、2011年には新設計のマザーボードが提案され、クライマックスDSはクライマックスDS/Kとして生まれ変わった。

ぼくは律儀に(?) ハード/ ソフト両面のすべてのヴァージョンアップに付き合ってきたが、その都度、音質改善が着実に果たされていることが確認でき、強い精神的満足感を実感している。とくにソフトウェアのヴァージョンアップで性能を向上させられるというのは、従来のオーディオ機器にはなかった発想だろう。「いつまでも陳腐化しないハイエンド機器」 実はリンDSの最大の革新性はここにあるのかもしれないと思う。現行のファームウェアDavaarのVer.9 からは、イーサネット入力部のLED を消灯することまで可能になった。実際にそうしてみて、微小信号の再現性がいっそう向上した気がしている。

それから、リンに引き続いて登場してきた各社のネットワークプレーヤーを使ってみて強く実感するのが、DS用操作アプリの使いやすさだ。サードパーティから提案のあった「SongBook」や「Chorus DS 」なども快適だったが、リン提案の「Kinsky」は極めつけの完成度の高さといってよいだろう。

また、PCオーディオ( パソコンとUSB DAC の組合せ) に比較すると、やはりDSの使いやすさと安心感は途轍もなく大きいと思う。PCオーディオは音質を左右する要素が多すぎるし( だからこそ楽しいという方もおられるが) 、再生の安定感もすこぶる心許ない。面倒なことは抜きに、ハイレゾ・ミュージックファイルをいい音で聴きたいという方には、ぼくは断然DSの導入をお勧めしたいと思う。

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“DSM で聴くHDMI入力の2ch 再生音は、まったく次元の異なるハイファイ・サウンド”

昨年(2012 年) 、リンはDSプレーヤーにプリアンプ機能を合体させたDSM シリーズを提案した。クライマックスDSM 、アキュレートDSM などを実際にテストしてみて、ぼくが最も興味深く思ったのは、HDMI入力の音のよさだった。HDMIはAV用のデジタル映像・音声規格で、ブルーレイプレーヤー/ レコーダーの標準インターフェイスである。ブルーレイの音楽・映画ソフトのなかには96kHz/24ビットのリニアPCM やロスレスコーデックで音声記録されている作品が思いのほか多いのだが、そんなハイレゾ音源をDSM で聴いて、その音のよさに驚かされたわけだ。

ぼくは日本国内で発売されている高級AVアンプの音をすべて聴いているが、DSM で聴くHDMI入力の2ch 再生音は、まったく次元の異なるハイファイ・サウンドであると断言する。HDMIインターフェイスでは、音声信号は映像信号の隙間に載せて伝送される。それゆえ音声クロックは映像信号のそれを基に生成されることになり、ジッター( デジタル信号の時間軸上のゆらぎ) がきわめて多くなるのだが、DSM では一度生成した音声クロックから、もう一度時間軸精度を叩き直したクロックを再生成し、ジッターを極小化する工夫が採られているという。DSM のHDMI音声の高音質にはそんな工夫が秘められているのだ。リン技術陣に訊くと、このジッター抑制の研究に約3 年の時間を費やしたという。

つい先日も東京のオーディオ専門店で、数十人のお客さんの前でアキュレートDSM を使ってブルーレイの音楽ソフトのデモを行なったが、帰りがけ、何人かの方に「ブルーレイってこんなに音がいいとは知りませんでした」という感想をいただいき、DSM のもう一つの魅力がアピールできて、とてもうれしかった。

未来のハイファイ・オーディオの萌芽はどこに? と誰かに訊かれたら、ぼくはきっとこう答えるだろう。それはリンのDSファミリーにあると。

Posted in Voice | Comments Off on vol.05 山本浩司先生

vol.04 山之内正先生

その大原則を突き詰め、たどり着いたのが、マスター音源のストリーミング再生という結論。
私にとってDSは、その目的を実現するための最短かつ最良の選択肢なのだ。

CDの後に同じタイトルをスタジオマスターで聴けば私が言っている意味がわかると思う。最初は、ここまで世界が変わるものかと、呆然としてしまうに違いない。

pic02
ネットワークオーディオ環境
KLIMAX DS/KとNASをRAKK2に収納

両者の間には、8合目あたりで振り返った時の景色と、山頂から見渡した360度の眺めぐらいの違いがあるからだ。
本当に聴きたかった音と出会う幸福感は実際に聴いてみないとわからない。
山頂からの眺めを山腹から想像できないのとよく似ている。
DSのリスナーはその幸福感を何度も味わうことができる。

btn_ds
davaar

新しい音源との出会いはもちろんだが、プレーヤー自体もファームウェアの更新によって成長し、進化する。
つねに最新技術の成果をリアルタイムで享受できること。
それも私がDSを手放せない理由の一つである。

音楽の楽しさ、素晴らしさを共有するメディアとしてYouTubeなどの動画配信が果たす役割が意外なほど重要になってきた。
以前はディスクのやり取りなど時間差がつく手段で情報交換していたのに、いまはアーティストの名前を検索欄に入力するだけで、瞬時に映像付き最新コンテンツがたくさん見つかる。
その便利さはいまやエンタテインメントのレベルを超えて広がりを見せ、意外なところで活用されている。
あるアマチュアオーケストラでは、目指すべき音のイメージをつかむための手段として、指揮者がYouTubeから適切なビデオを探し出し、メンバーに教える。
その選曲があまりに意外なものなので最初は驚くのだが、パソコンやiPhoneで実際に見てみると、その曲を選んだ理由が一瞬でわかるという仕掛けだ。そのアプローチが確実な成果を上げているのはいうまでもない。

インターネットで動画を見る手段は人それぞれだが、いま一番活用されているのはパソコンかタブレットだろう。
どちらも即座にコンテンツが出てくるので非常に便利だが、唯一の欠点は音があまりに貧弱なことだ。
天才ピアニストの驚愕のライヴ映像を見つけても、パソコンで見ているだけではどこが凄いのかわからなかったりする。
そんなとき家の中にリンのDSがあれば、Songcast/Net Auxという最新機能を利用し、パソコン/iPadの音を瞬時にオーディオシステムに
転送することができる。
Wi-Fiを利用した高音質伝送なので音質劣化はなく、なによりもケーブルレスでパソコンの音が迫力のある音ですぐに楽しめるのは感動的ですらある。

NetAux
iPadなどのタブレットは、NetAux機能を使って手軽に再生。
Songcast
パソコンには、Songcastをインストールして更に高音質再生。
icon_Songcast
Songcast

DSで聴くと、YouTubeのライヴ映像の音が単なるオマケではないことがよくわかるはずだ。HD画質というだけで驚いてはいけない。
プロモーション用の番組でなくとも、レンジの広いダイナミックなサウンドにはいくらでも遭遇すはずだ。
DSを通して聴くことで、パソコンやタブレットでは見過ごしていた価値に気付かされるのはよくあることだ。
DSのリスナーにとっては意外な活用法かもしれないが、ぜひお試しを!

Posted in Voice | Comments Off on vol.04 山之内正先生

vol.03 古川雅紀 (株式会社リンジャパン)

株式会社リンジャパン 古川 雅紀

本書は、JASジャーナル(日本オーディオ協会会報誌)に寄稿した文章に修正を加えたものです。』

大きな字、または印刷してお読みになりかたい方はこちら

【三年を振り返る】

 2010年10月をもって、LINN PRODUCTS 社が「DS(デジタルストリーム)プレーヤー」を発表してから丁度三年が経過する。現状が「石の上にも三年」との諺の通りかどうかはさておき、望むと望まざるとにかかわらず変貌する世の中で、LINN のDSを取り巻く状況も大きく変化しました。 現時点からこの三年を振り返り、高音質な音楽再生を目指し、長年取り組まれてきたコンポーネントスタイルのオーディオにとってネットワークを活用したデジタルストリームプレーヤーが備えている可能性について少し考察してみたいと思います。

【全く新しい製品ジャンル】

 2007年秋の東京インターナショナルオーディオショウの小社ブースでの製品お披露目に先立ち、LINN が公式にデジタルストリームプレーヤーとしてKLIMAX DSを発表した際に最も戸惑いを禁じ得なかったのは、総輸入代理店である小社かもしれません。 それは次の二つの理由によってです。ひとつには、CDを凌駕する次世代オーディオとしてSACDをソフト、ハード両面からサポートしてきたLINN からメカレスのミュージックプレーヤーが発表されたことへの驚き。・・・
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【○ 全く新しい製品ジャンル】

2007年秋の東京インターナショナルオーディオショウの小社ブースでの製品お披露目に先立ち、LINN が公式にデジタルストリームプレーヤーとしてKLIMAX DSを発表した際に最も戸惑いを禁じ得なかったのは、総輸入代理店である小社かもしれません。

それは次の二つの理由によってです。ひとつには、CDを凌駕する次世代オーディオとしてSACDをソフト、ハード両面からサポートしてきたLINN からメカレスのミュージックプレーヤーが発表されたことへの驚き。他方、ネットワークを活用するシステムアップ、つまり、音源を保存するハードディスクであるNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)、および音源やデータの取得と操作のために用いるPC 等サードパーティの製品を必要とする等、設置と販売に関する戸惑い。とりわけハイエンドオーディオの領域においてその時期LINN には、SACD再生可能なディスクプレーヤーの最高峰機種(つまりCD12の後継機種)発表の期待が寄せられていたこともあり、市場はもちろんのこと、プレスやほとんどの販売店様からホットな反応は得られませんでした。

そのような発売当時の状況下においては、いまとは違って、音楽配信によるハイレゾリューション音楽データの購入や再生がもたらす新たな音質水準についてのプロモーションも、DS の認知と販売にとっての有効な手立てとはならず、専らCD のリッピングデータの再生とディスクプレーヤーでの再生クオリティの比較によるデモンストレーションが唯一DS の存在価値を裏付けるものとして機能していました。

ただ、有り難いことに、1972年 の創業以来、「デモによる販売」すなわち、広告やカタログ等ではなく実際に音楽を再生することによってお客様に製品の良否を判断していただくことを継続してきたLINNの姿勢を再度DS のプロモーションにおいても徹底することによって、音質の良さを実感し最終的にユーザーとして製品を引き寄せて下さる方々が誕生していきました。 ディスクプレーヤーでは実現できなかったCDフォーマットの高音質再生。DS の市場への初期段階での導入は、図らずもLINN の創業時と同様、地道なデモンストレーションと音質のアピールというオーディオ製品のプロモーションの原点回帰と、エンドユーザーの高音質再生にかける熱意がシンクロできた現場で成果をもたらしました。

比較するものが無い新しい製品ジャンルの製品でしたが、音楽再生を通じて従来のオーディオシステムと融合させ新たな高みに到達することが可能であるという事実を積み重ね、LINN DS の存在を訴え続ける事ができたのです。 翌年春に姉妹機として登場したAKURATE DSも、KLIMAX DS 同様、入力端子にはETHERNETのみが採用され、製品ジャンルとしてのコンセプトを固持するものであり、DS の推進にかけるLINN の意欲を再認識させることになりました。

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【ハイエンドからエントリーレベルまで】

 新たな製品ジャンルとしてコンセプト発表からほぼ一年後の2008年夏、DS のシリーズに新たな製品が2機種追加ラインアップされました。 MAJIK DSとSNEAKY MUSIC DSは、先行するハイエンド機種には無かった機能性が付加され、結果としてより多くの潜在ニーズが市場にあることを示し、LINN DS が着実に評価を高めてきたことを裏付けることになりました。 ・・・
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【○ ハイエンドからエントリーレベルまで】

新たな製品ジャンルとしてコンセプト発表からほぼ一年後の2008年夏、DS のシリーズに新たな製品が2機種追加ラインアップされました。

MAJIK DSとSNEAKY MUSIC DSは、先行するハイエンド機種には無かった機能性が付加され、結果としてより多くの潜在ニーズが市場にあることを示し、LINN DS が着実に評価を高めてきたことを裏付けることになりました。

MAJIK DS はデジタル出力端子を装備し、既存のD/A コンバータとの接続が可能となり、CDトランスポートを代替するDS の新たな使用法を提案。その際にも、ディスクプレーヤーではできないライブラリ検索やプレイリストの作成等、DS ならではの操作性がもたらすメリットの認知も進行します。

また、SNEAKY MUSIC DS は音量調整とパワーアンプ機能を備え、左右ペアのスピーカーを用意するだけで、サウンドシステムが構成できるDS のオールインワンコンポーネントとして、エントリーレベルのユーザー層拡充が企図された製品として注目を集めますが、当時のネットワーク環境/一般認知などの問題から日本においては時期早々という状況で、海外市場と同様の展開までに至ることはありませんでした。

しかしながら、CDに代わる次世代オーディオのソースとして喧伝されたDVD-A が消滅し、メジャーレーベルからのSACDソフトのリリースも増加しない中、パッケージメディアの擁護者たらんとする保守的なオーディオファイルにも、ディスクメディアがデジタルデータのアナログ手法によるキャリアであることと、データ抽出とファイル管理に関してPCが持つ優位性と、LINN DS のシステムアーキテクチャこそが、音楽再生のプレーヤーとしてPCを使用するいわゆるPCオーディオとは一線を画し、高音質音楽再生を目的としてドライブメカの排除、ネットワークの活用を意図した極めて明快なプランに基くものであること等、デジタル音源に関する本質的な理解とデジタルストリームプレーヤーの可能性への興味が、その頃ようやく深まり始めたように思われます。

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【ソフトが先かハードが先か】

CD が登場してから約30年間、フォーマットを守り、ディスクプレーヤーも音質向上の様々な手立てを講じて今日に至るのはご承知の通りです。 CD誕生の1982年から活動を始めたLINN RECORDS の存在もデジタルストリームプレーヤーの開発・製品化に大きく貢献するものです。 アナログ録音とLPレコードのカッティングから始まったその活動が、録音の現場にデジタルレコーダーが持ち込まれ、ハードディスクレコーディングにとって替わるのも時代の趨勢でした。 ・・・
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【○ ソフトが先かハードが先か】

CD が登場してから約30年間、フォーマットを守り、ディスクプレーヤーも音質向上の様々な手立てを講じて今日に至るのはご承知の通りです。

MAJIK DSとSNEAKY MUSIC DSは、先行するハイエンド機種には無かった機能性が付加され、結果としてより多くの潜在ニーズが市場にあることを示し、LINN DS が着実に評価を高めてきたことを裏付けることになりました。

CD誕生の1982年から活動を始めたLINN RECORDS の存在もデジタルストリームプレーヤーの開発・製品化に大きく貢献するものです。 アナログ録音とLPレコードのカッティングから始まったその活動が、録音の現場にデジタルレコーダーが持ち込まれ、ハードディスクレコーディングにとって替わるのも時代の趨勢でした。レコーディングセッションのプレイバックやマスタリングの音質をフォーマットの制約無しにそのまま届けたい。演奏家、録音チームの当たり前の感情を可能にする手立てが音楽配信だったのです。 インターネットを通じてダウンロードで音源が入手できる。先鞭を切って世の中に広まってしまった音楽のダウンロードサービスが利便性のために圧縮音源を優先したため、音楽配信にはあまり歓迎されるべきではないイメージがつきまとっていましたが、LINN RECORDSがスタジオマスタークオリティ音源の音楽配信をスターとさせたのはDS発表の約1年前のことでした。 その後、ハイレゾリューション音声ファイルのダウンロードサービスは着実に増加の一途をたどり、メジャーレーベルの再編や衰退が続進するのとは逆に、制作者の意図に沿った録音と楽曲の販売のスタイルとして、特にクオリティーミュージックの世界で定着してきました。

録音の現場と後処理のプロセスに携わり、デジタルデータの特質を最大活用する音楽配信と、フォーマットの制約を受けずピュアな音楽再生を可能にするデジタルストリームプレーヤーとして、LINN DSとLINN RECORDSの活動に当初から備わっていた特質に再度注目する動きが出てきました。

ステレオレコードが世に出てから15年後の1972年に創業したLINN がCDの登場後15年を経てCD12 という伝説的名機を誕生させ、その10年後にKLIMAX DS というデジタル音声ファイルに特化したミュージックプレーヤーを発表。アナログ音声の符号化とコンピュータの進化、家庭内インフラの整備を考慮すれば、機は既に熟していたと言えるでしょう。

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【LINN DS のテイクオフ宣言】

 2009年の半ばにDSのファームウエアが一新されました。CARA(カーラ)というファミリーネームのソフトウエア群によって、操作ソフトの視認性や操作性が格段に向上すると同時に、ネットワーク上での動作の安定性、さらには音質の向上も伴い、余程のPCアレルギー(トラウマ?)でもない限り、LINN DSが一層ユーザーフレンドリーなオーディオ機器としてご利用いただけるようになり歓迎されました。 さらに同年秋には、DSのプレーヤー機能とデジタル・アナログの外部入力を備えたプリメインアンプを一体化した姉妹機、MAJIK DS-I、SEKRIT DS-Iを発表 ・・・
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【○ LINN DS のテイクオフ宣言】

2009年の半ばにDSのファームウエアが一新されました。CARA(カーラ)というファミリーネームのソフトウエア群によって、操作ソフトの視認性や操作性が格段に向上すると同時に、ネットワーク上での動作の安定性、さらには音質の向上も伴い、余程のPCアレルギー(トラウマ?)でもない限り、LINN DSが一層ユーザーフレンドリーなオーディオ機器としてご利用いただけるようになり歓迎されました。 さらに同年秋には、DSのプレーヤー機能とデジタル・アナログの外部入力を備えたプリメインアンプを一体化した姉妹機、MAJIK DS-I、SEKRIT DS-Iを発表(このタイミングでSNEAKY MUSIC DSは販売完了)。DS のソース機器としての優秀性とコンパクトで機能性の高いLINN エレクトロニクスを合体し既存の製品ジャンルでは括れない機種でありながら、発表以来多くの注目を集めているのは昔日の面影がありません。 LINN は2009年11月20日に、すべてのデジタルディスクプレーヤーの生産を2009年末をもって完了する旨の正式発表をし、結果としてLINN DS が完全にテイクオフしたことを宣言しました。我国の市場においても、LINN から新たにディスクプレーヤーが登場することが無くなったことを嘆く声はほとんど寄せられず、むしろ、LINN DSが今後のデジタル音楽再生の確固たる存在となることは、既存のDSユーザー様には満足と安心を与え、予備群たるオーディオファイルには後押しと再注目の契機として捉えられました。 デジタルストリームプレーヤーとしての機能の絞込みと、ハイエンドクオリティからスタートしたLINN DS が、ETHERNET 入力しかない、ハードディスクを内蔵していない、ドライブメカを内蔵していない、等々、できないことを指摘されながら冷遇されていたにもかかわらず、そのクリアーなビジョンと音楽をより良い音で聴きたいという真摯な情熱に応えることのできる完成度を備えていればこそ、今日の状況を迎えることができたのです。

加えて、ネットワーク経由でソフトウエアをアップグレードすることによって、対応音声ファイルの拡張や、使い勝手の更新、音質の向上を計ることができる製品コンセプトのメリット。LINN DSの3年間は、ハードウエアの性能的到達点が高ければ高いほど容易に陳腐化するものではなく、音楽の価値自体が、製品の存在理由を証明し、少しずつしかし着実に賛同者を獲得するという、優れたオーディオ製品がこれまで辿ってきたのと同じことがデジタルオーディオの世界にもあてはまることを物語っているのです。

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【結びに代えて】

 2009年、LINN RECORDS の機材の大部分が新調されスタジオマスター音源に自社録音の192k/24bit音源が加わってきました。フォーマットのスペックが音の良し悪しを直接保障するものではないものの、自然なプレゼンスや繊細なニュアンス等、ディスク再生では実現できなかった新しい音世界がサウンドシステムから感得されるでしょう。 操作ソフトもアップデートされ、インターネットラジオもさらに使い易く、音質の優れた局をいくつもプリセットできるようになりました。膨大なレコードやテープコレクションを持っていても、チューナーが偶然キャッチした音楽が心を打つ、そんな往時の体験もネットワークを通して可能になっています。 ・・・
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【○ LINN DS のテイクオフ宣言】

2009年の半ばにDSのファームウエアが一新されました。CARA(カーラ)というファミリーネームのソフトウエア群によって、操作ソフトの視認性や操作性が格段に向上すると同時に、ネットワーク上での動作の安定性、さらには音質の向上も伴い、余程のPCアレルギー(トラウマ?)でもない限り、LINN DSが一層ユーザーフレンドリーなオーディオ機器としてご利用いただけるようになり歓迎されました。

さらに同年秋には、DSのプレーヤー機能とデジタル・アナログの外部入力を備えたプリメインアンプを一体化した姉妹機、MAJIK DS-I、SEKRIT DS-Iを発表(このタイミングでSNEAKY MUSIC DSは販売完了)。DS のソース機器としての優秀性とコンパクトで機能性の高いLINN エレクトロニクスを合体し既存の製品ジャンルでは括れない機種でありながら、発表以来多くの注目を集めているのは昔日の面影がありません。 LINN は2009年11月20日に、すべてのデジタルディスクプレーヤーの生産を2009年末をもって完了する旨の正式発表をし、結果としてLINN DS が完全にテイクオフしたことを宣言しました。我国の市場においても、LINN から新たにディスクプレーヤーが登場することが無くなったことを嘆く声はほとんど寄せられず、むしろ、LINN DSが今後のデジタル音楽再生の確固たる存在となることは、既存のDSユーザー様には満足と安心を与え、予備群たるオーディオファイルには後押しと再注目の契機として捉えられました。 デジタルストリームプレーヤーとしての機能の絞込みと、ハイエンドクオリティからスタートしたLINN DS が、ETHERNET 入力しかない、ハードディスクを内蔵していない、ドライブメカを内蔵していない、等々、できないことを指摘されながら冷遇されていたにもかかわらず、そのクリアーなビジョンと音楽をより良い音で聴きたいという真摯な情熱に応えることのできる完成度を備えていればこそ、今日の状況を迎えることができたのです。

加えて、ネットワーク経由でソフトウエアをアップグレードすることによって、対応音声ファイルの拡張や、使い勝手の更新、音質の向上を計ることができる製品コンセプトのメリット。LINN DSの3年間は、ハードウエアの性能的到達点が高ければ高いほど容易に陳腐化するものではなく、音楽の価値自体が、製品の存在理由を証明し、少しずつしかし着実に賛同者を獲得するという、優れたオーディオ製品がこれまで辿ってきたのと同じことがデジタルオーディオの世界にもあてはまることを物語っているのです。

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vol.02 大萩康司さん(ギタリスト)

LINN との出会い、あるいは実際にシステムをお使いいただいている感想をお聞かせ下さい。 留学している時は、そんなにいい装置は使えなかったんですけど、高い棚に置いて上のほうから音が聞こえて来るのが好きでした。あれこれいじるのは好きだったので、どこに置いたらどういう音がするのかなと、いろいろなところにスピーカーを置いたりしてみました。

以前からDさん(サウンドマック福岡)にはお世話になっていて、LINNの音は聴かせてもらっていました。 まさに演奏している場所に自分が行って、スピーカーとスピー カーの間に演奏者が居るような感じがして、これは何だろっていう驚きがありました。今まで自分がCDを聴いていて思いもしなかったことだったので衝撃的でした。

NINKAが家に届きセッティングしてもらっている間に、焦点・・・音の輪郭が少しずつ固まってくるのが見えたんです。音の変化はとても大事な要素の一つだけれど、それよりもスピーカーの置き場所ひとつで音楽の表情も、ものすごく変わるんだなと実感したんです。

でも、そういう変化を明確に表現してくれるのはLINNだからと思うし、家でとてもびっくりしたのは、重低音と呼ばれるコントラバスなどの低い音程がしっかり聴こえてくること。 いわゆる大型のモニタースピーカーで低い周波数の音を聴いたとき、音程の感じが鈍ってくる感覚がするんです。

でもLINNのスピーカーではそれを感じなくて、こういうふうにちゃんとはっきり聴こえるものなんだ、と改めて感動して、LINNのスピーカーをぜひ欲しいと思ったんです。 それと、ずっと聴いていられる点も気に入っています。自分がギターを弾いているときも、弾いていると疲れる楽器があるんですね。手が疲れるのではなく、耳が疲れる。少し経つとこれ以上は弾きたくないなとギターを置いてしまうような楽器があるのですが、名器になると何時間弾いていても飽きない、疲れない楽器があります。それと似た感があります。

高名な楽器でも自分に合う、合わないというものがあるのですか。 あると思います。自分では絶対弾かないだろうなという楽器を弾いている人ももちろんいるし、ただ音が大きいだけとか、派手で最初聴いたときのインパクトはあるけれど、それを2時間3時間聴きたいですか?と言われると自分としては聴きたくない。どこを弾いても同じ音色が出ている。強弱の表現よりも、音量というか、ボリュームが果たして必要なのか。音楽のダイナミクスというのはゼロからどこまで、100とか200までとか限定されるのではなく、一つ一つの音の間にどういう内容が含まれているのか、というのが大事だと思います。 楽器にしても、もし一番大きく掻き鳴らしたときの音のMAXはそれほど大きく感じない楽器でも、音量とか音質とか、それが1から100まで段階があるものよりも、実際に聴いている音量にさほど差がなくても、内容が濃くて、もっとダイナミクスを感じることができる楽器が好きです。

オーディオも控えめな音量の中でどのくらいのニュアンスが表現できるかどうか・・・ オーディオ装置の多くは、音量を小さくすると聴こえない音があったり、音量を大きくするとうるさく感じる。それを感じさせないオーディオがこれです。 深夜のまったく静かな時に、音量表示の2とか3くらいで流していても、少し時間が経つと音楽が全て聴こえるようになる。それがとても気持ち良い。もちろん音を大きくしてもうるさく感じないし。

pic03引っ越された新しいお住まいでよくお聴きになるCDを紹介していただけますか? アンドレ・セコビアの“デディケーションズ”というCDです。 セコビアのために書かれた曲をセコビア自身が弾いているものを集めたCDです。 最近出たのですが、演奏はもちろん1950年代のものだったり、年数はバラバラだったりしますが、そういう演奏が間近に聴けるのでありがたいなと思います。亡くなってしまった大家の演奏でも、ギターだったら6本ある弦の、どの弦で弾いていたのかなというのが装置が良くなると少し分かるんですね。Dさんにセッティングしていただいて、ギターソロのCDだとしたら、真ん中に人がひとり居る感じになるんです。 そして、どの爪で、どういうポジションで弾いているのかが見えてくる感じなです。だから自分にとって、それがギターの先生と同じくらいとっても価値があるものになりました。

LINNのシステムにされて生活に変化がありましたか? 大きく変わったと思います。自分が今まで聞き流していたテレビから流れるCMの音楽も、こんなにいい音を使っていたのかと思うものもあれば、一方には雑なノイズが入っているCMもある。 それは今まで自分がテレビを観ていて思いもしなかったことで、それが衝撃でした。それに、人と人との出会いで知ることが、音楽を通せばより明らかになる気がします。

pic02選んだシステムは、これはこれの存在感があって見ていてもいいですしね、色も自分が好きな落ち着けるもので、チェリーの仕上げを選んでるんですけど、音が鳴ってな くてもこの空間は自分の大好きな空間です。だからこれ以上はコンパクトにし過ぎないでくれっていうか。それとはまた正反対に、できればLINNから携帯できるものでこれくらい上質なものを提供してくれたらすぐに買ってしまうんじゃないかな。 それがヘッドホンでもいい。夜中、家の中で爆音で聴きたいときにヘッドホンがあれば便利だから。

音楽は、たとえば映画のワンシーンのように、ふとした拍子に自分がそこに居た状況を思い出したり、好きだった人のことを香水の香りが思い出させたりするような作用をすることがあります。良かったもの、感動したものは自分の中で思い起こすことができる大事なものですね。落ち込んで、この先どうしたらいいのかな、と思ったときに助けてくれるのは人ではなくて自分の場合は音楽だったということがとても多いので、音楽が自分の仕事になっているのは本当にありがたいことだなと思っています。

ご協力ありがとうございました。(取材協力:サウンドマック 福岡)

Posted in Voice | Comments Off on vol.02 大萩康司さん(ギタリスト)

vol.01 竹中直人さん(俳優・映画監督)

竹中直人さんがお使いのLINNシステム KISTO (システムコントローラー) AV5105×3(パワーアンプ/生産完了品) AV5140(フロントスピーカー/生産完了品) AV5120(センタースピーカー/生産完了品) AV5110(リアスピーカー/生産完了品) AV5150(スーパーウーファー/生産完了品) KARIK(CDプレーヤー/生産完了品)

LINNシステムをお使いいただいて約10年になられると思うのですが、今までお使いいただいた感想をお聞かせ下さい。 完璧ですね。完璧すぎちゃって困ってます(笑)。 最近、“東京スカパラダイスオーケストラ”の冷牟田君や“くるり”の岸田君が遊びに来てくれて、びっくりしてくれました(笑)。友達を自分の家に連れてくるのは、いいですよね。改めて感動します、すげーなって驚いてくれるから(笑)。「どこのですか?」と聞かれると、堂々と「LINNだよ!」って答えるんです(笑)。

そんなときはどんなソフトをご覧になるのですか? 音楽が多かったですね。ポリスを見たり、今年の1月にNHKホールでやった「どんと紅白」(ボガンボスのヴォーカル、どんとの7回忌イベント)、BSフジで放送されたんですけど、それをスタッフがDVDに残してくれたものや、「フィッシュマンズ」のライブDVDを見ました。

よくお客様がいらっしゃるのですか? そんなには来ないですよ(笑)。帰りが遅かったりするので。 そのときはちょうど打ち合わせをしていたものですから。いいタイミングで家来る?ってことになったもので。

普段はどんなときにソフトをご覧になりますか? 突然休みになったときですね。雨で撮影が中止になったり。 この部屋でLINNの音を聞くと…この前海外版の未公開ホラー映画(ウルフ・クリーク)をDVDで発見して、英語はわからないんですが(笑)、音と映像だけで「すげえなぁ」って(笑)。非常に精細に作られている作品などはたまりませんね。美しく艶があって、静かに繊細に音が響いてくる。ライヴ版とかも家の100インチのスクリーンで観ると本当のライヴにいるような感じです。

その前に使っていたシステムはあったのですか? はい。一番最初にドルビーサラウンドにしたのは、僕がこの世界にデビューした27才の夏でしたね。 いきなり生活出来るようになって、大画面とDSは夢のまた夢でしたからね。国産のアンプでした。それはまだそんなにこだわってなかった頃ですから…と言っても、自分の家で映画を観れるなんて思ってもいなかったので、システムが揃った時には感動で泣きました…。これでもう十分だろうって思っていました。

LINNシステムで楽しむお気に入りのディスクがあれば教えてください。 最近は“フィッシュマンズ”のDVDですね。「若いながらも歴史あり」「男達の別れ」のライヴDVDをよく見ています。

CDやLPは…。 LPはね、持っているのですが、もうプレーヤーは物置にしまってしまいました。 ある取材でLINNのLP12を聴かせてもらった時は、CDの音って何だろう…って思ってしまうほど感動しました。やはりレコードの方が素晴らしいと思いました。CDでよくかけているのは“ジョアン・ジルベルト”とか、“ジャック・ジョンソン”とか、“YUKI”とか“ハナレグミ”とか、“くるり”とか“クラムボン”とか“ナタリー・ワイズ”とか、日本のが多いですね。洋楽だと、“ポリス”、そして“スティング”、“U2”ですね。最近「シンクロニシティー」のライヴがDVDで出たので楽しみに観ました。カッコよかった。3人だけというのがすごくイイですよね。ベースとギターとドラムだけ。

pic02竹中さんにとってこのシステムはどんなものですか? 夢でした…。もちろん映画館で映画を観るのが一番ですが、映画館に行くとどうしても前の人の後頭部とか気になるでしょ?こいつ後ろにもお客さんいるのに姿勢良過ぎだよ、とかいろんなこと思うじゃないですか。僕は後ろに人がいると悪いから下がって見ますけどね(笑)。気を使うんですよね、映画館で見ると。この部屋だと誰にも干渉されずに自分一人の世界で見ることが出来ますからね。もちろん生のライヴもいいですが、スティングとか見に行ったりして、前にいるお客さんが好な曲が始まった時、待ってましたーって感じで指さしたりすると、そんなに主張すんなよ!って気になっちゃう(笑)、そんな踊りまくんないでくれよって(笑)。でも、この前のストーンズは感動して泣きながら踊ってしまいました(笑)。

そうやっていろんなことを思ってしまうんで、そういう意味ではこのシステムは本当に自分のものっていう感じですね。しかも家で聴けるっていうのが、見れるっていうのが、一番贅沢なんじゃないですかね。もう人ごみの中に行く力がないっていうか。昔は電車を乗り継いで行きました。この映画はここでしか見られないなとか思って。今、新宿とか渋谷で映画を見るのはやっぱり雑踏に立ち向かう勇気が要りますからね(笑)。

本当にLINNのシステムは最高です。デザインも品があるし、美しい。色もいいですからね、あの茶(チェリー)が。

10年たっていい感じになってきていますよね。 いいですよね。CDプレーヤーとかもすごく好きだし、あのアンプの黒い存在感とか、控えめでいて主張せずにどーんと存在している感じというのかな。たまらないです。世の中には奇をてらったデザインのものとかもありますが、斜めに立ったスピーカーとか。でもLINNはシンプルにスーっと立っている。そしてあのマーク。あのマークが、染み入りますね。だから僕の監督した映画「サヨナラCOLOR」という映画でも使わさせていただきました。また畳にもあうんですよね、LINNは。畳に置きたかったんです。

和室にもあいますよね。 そうなんです、和室にもしっくりくる。

竹中さんのこの部屋すごく素敵ですよね。 自分の仕事に満足するっていうのはないけれど、システムに満足するっていうことはありますね。もう満足ですね。何十年も使っていたい、愛着のある…だからカーステレオもLINNでと思ったのですが、アストンマーチンの純正しかやってないんですね。自分の車でもLINNのシステムができたら夢ですね。車の免許を取ったのが47才の時だったんです。車の中で音楽を聴ける点、自分が運転して音楽を聴くのと、仕事の移動の時に事務所の人が運転して音楽を流してるというのとでは音楽の聞こえ方が全然違うんですよね、感じ方が。自分で運転しながら、今日は撮影が早く終わったから海にでも行こうかってときに音楽が流れているというのはたまらなくいいですからね、自分の運転で自分で選曲しながら。カーステレオのシステムがLINNだったらいいのにナァ…。

竹中さんはアストンマーチンもきっとお似合いでしょうから。 いやいや。でもすげぇなぁ。気分はジェームズ・ボンドでしょうね。

LINNのポータブルCDプレーヤーとか出たら凄そうですね。iPodに入れちゃうというよりCDを何枚も持っていくというのが楽しいな。やっぱり好きなアルバムは常に地方ロケの時は持っていきますからね。CDケースから出して、専用ケースに何枚も入れて。だからみんなどっかいっちゃうんですよ。アーティストのCDケースをあけて、あれ、中身がない!って。それが大変ですよ、どこに置いたのかなぁって。それが難点ですよね。どっかいっちゃうんですよ、ケースはあっても。それでまた買っちゃうんです、見つからないから。探してると気が狂いそうになるので。いいや買っちゃおうって(笑)。でも後で見つかって、「なんてこったー!」って叫ぶんです…。

LINN万歳です! あのスピーカー、細長いのかな、って横を見るとそうじゃない。それがいいですよね。正面から見た印象と横から見た印象が違うというのが。アンプも黒で、シルバーのこうラインがスっと入っている感じが。そして照明がブルー、あのブルーの色がいいですよね、暗くしたときに。本当にLINNのシステムは憧れでした。感謝オドロキです!

ご協力ありがとうございました。

Posted in Voice | Comments Off on vol.01 竹中直人さん(俳優・映画監督)

ピーター・バラカン A Taste of Music Vol.04

“いい音楽とは?”、“いいライヴとは?” A Taste of Musicは、音楽の伝道師ピーター・バラカンさんが素敵なオーディオ空間を訪ねながら、自ら選りすぐった音楽の魅力をライヴやレコードの聴きどころとともにお届けするWebマガジンです(毎月1回更新予定)。

構成◎山本 昇

[Featured Artist]

BOZ SCAGGS

アンコールで伝説の「ローン・ミー・ア・ダイム」を熱演!
2013年11月18日、渋谷公会堂のステージから。
Photo by Masanori Doi 写真提供:日本コロムビア

今月も、僕が勝手に注目するミュージシャンについて、その音楽の素晴らしさをいろいろな角度から紐解いていきたいと思います。どうぞお付き合いください。11月もたくさんのライヴに足を運びましたが、特にいい印象を残してくれたのが渋谷公会堂で公演を行ったボズ・スキャッグズでした。

ボズは今回、とてもいいバンド・メンバーを連れてきました。ギタリストは、最近ではスティーリー・ダンのツアーにも参加しているドゥルー・ジング。ベーシストのリチャード・パタスンはデイヴィッド・サンボーンのバックを長く務めていましたが、この公演でもすごくしっかりした演奏を聴かせてくれました。キーボード奏者の一人はマイク・ローガンというシカゴのミュージシャン。オルガンやエレクトリック・ピアノ、シンセサイザーなど、楽器の使い分けが上手く、もちろん演奏も抜群に良かったです。ボズのポップな曲ではそれほどアドリブがあるわけじゃなく、「いいリズム感だな」と聴いていたら、ブルーズっぽい曲や、バラードの「ハーバー・ライツ」などスウィング感のある曲のソロがすごくよかった。ドゥルー・ジングとリチャード・パタスン以外は特に有名な人ではないけれど、達者な腕を持ったミュージシャンを連れてきたなという印象でした。

最後のアンコールでは、デビュー作『ボズ・スキャッグズ』に収録されている「ローン・ミー・ア・ダイム」を演奏しました。この曲はフェントン・ロビンスンというシカゴのブルーズマンが60年代に作ったのがオリジナルで、12分以上におよぶ長尺にして超スローなブルーズですが、途中でテンポが速くなる展開でドゥウェイン・オールマンが素晴らしいソロを延々と弾き続けます。昔のボズが好きな人の間では伝説となっている1曲で、まさかこれを日本で聴けるとは思ってもみませんでした。ドゥルー・ジングがとてもいいギターを弾いたし、ほかのメンバーもすごくいい演奏を披露してくれて、客席のみんなが感動したのがわかるような、とてもいいコンサートでした。ボズは昔から持っていた良さを失ってはいなかったということを確認できたステージでもありました。セットリストの多くは最新作『メンフィス』と大ヒット・アルバム『シルク・ディグリーズ』から。後で詳しく紹介しますが、『メンフィス』は渋いソウル~R&Bの世界で、『シルク・ディグリーズ』は洗練されたポップ・ワールド。でも、対照的であるはずの二つのアルバムが無理なく一つのステージに収まっていたのは嬉しい発見でした。

渋谷公会堂での公演は2日ともチケットが売り切れとなりましたが、会場の規模はちょうどよかったと思います。適度に広いけど、ステージと客席の距離が離れすぎることもありません。ジャズ・クラブほどではないけれど、今のボズの音楽を堪能するにはいい会場だったなと思いました。その翌々日、僕はポール・マカートニーの公演を観るため、久しぶりに東京ドームに足を運びました。端的に言って、それはコンサートではなくショウと言うべきものでした。ものすごく完成度の高いショウだったけれど、僕は感動することができませんでした。観た人の中には感激のあまり泣いちゃったというファンもたくさんいたから、ラジオでは言いづらかったんですけど(笑)。まぁ、5万人を相手にステージを展開するには、このような計算された演出も仕方がないのでしょう。最近はコットンクラブやブルーノートなど、大きすぎないライヴ会場で観る機会が増えたから余計にそう感じるのかもしれませんが、やはり音楽は親密な雰囲気の中で楽しみたいものです。ミュージシャンの表情が見て取れて、演奏のニュアンスを楽しめ、音楽の呼吸というものが感じられるのがいいコンサートの条件。それを東京ドームに求めるのが間違いなのでしょうけれど、ボズの素晴らしいステージからたった2日後のことだったので、つい比較して考えてしまったというわけです。


[Recommended Albums]

BOZ SCAGGS『MEMPHIS』

最新作は名門ロイヤル・スタジオでのレコーディング
日本コロムビア COCB54060

最新作『メンフィス』について、先日のコンサートでボズ・スキャッグズ自身がこんなことを話していました。ブルック・ベントンの「雨のジョージア」、ボブ・ディランも初期に歌ったトラディショナル・ソング「コリーナ、コリーナ」の2曲は、彼が住んでいるサンフランシスコにとってとても大切な人が亡くなり、その追悼コンサートで演奏してみたところ、思いのほか上手くいったこともあって、新作のレコーディングでも歌うことにしたそうです。そのサンフランシスコにとって大切な人というのは、「ハードリー・ストリクトリー・ブルーグラス(厳密にいうと決してブルーグラスとは言えない)・フェスティヴァル」という音楽祭のスポンサーだった地元の投資家ウォレン・ヘルマン氏のことです。もう10年以上続いているこのフェスティヴァルには、ボズのほかにもたくさんのミュージシャンが集まるので、いつか僕も観に行きたいと思っていました。とにかくものすごい大富豪で、フェスティヴァルは入場無料、出演者にもずいぶん気前のいいギャラを与えていたそうです。

Photo by Masanori Doi 写真提供:日本コロムビア

『メンフィス』にはほかにも注目したいカヴァー曲があります。スティーリー・ダンの2作目『カウントダウン・トゥ・エクスタシー』の最後に収められている「パール・オヴ・ザ・クォーター」は、いい曲なんだけど誰かがカヴァーするとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。ウィリー・デヴィルの「ミックスト・アップ、シュック・アップ・ガール」も、渋いけど大好きな曲です。タイトルのとおり、メンフィスのロイヤル・スタジオで録音されたこのアルバム。ソウルやブルーズを中心とした選曲は、AORだった頃のイメージからは結びつかないかもしれませんが、昔のボズを知っていれば「ああ、やっぱり」と、とてもしっくりくるんですよ。主なバック・ミュージシャンはスティーヴ・ジョーダン(ドラムズ)とレイ・パーカーJr.(ギター)、ウィリー・ウィークス(ベイス)。これだけでも抜群の布陣ですが、さらにスプーナー・オールドハム(キーボード)らの腕利きが加わっている点も見逃せません。そして、ボズのヴォーカルはとても69歳とは思えない。決して声量がある感じの歌い方ではないけれど、なんとも魅力的なんですね。

BOZ SCAGGS『Boz Scaggs』

ブルージィなボズのルーツがここに
ワーナーミュージック・ジャパン WQCP814

今回はボズの最新作に加えてもう一枚、彼のデビュー作『ボズ・スキャッグズ』を推薦したいと思います。このアルバムは1969年にマスル・ショールズ・サウンド・スタジオで録音されました。ソウル系の人たちにはよく知られたこのスタジオですが、当時はまだ一般のロック・ファンには認知されていませんでした。昔のレコード・ジャケットと言えば、ライナー・ノーツどころかクレジットすらちゃんと表記されていないことが多かったのですが、このアルバムには参加ミュージシャンが写真付きで紹介されています。僕はこのレコードを70年代に入ってから、当時働いていたロンドンのレコード店で見つけて初めて聴いたのですが、その後、オールマン・ブラザーズ・バンドで活動するも、間もなく事故で亡くなったドゥウェイン・オールマンの名があったことに驚きました。エリック・クラプトンなど一部のミュージシャンから注目されてはいたものの、当時はほとんど無名だったドゥウェインを起用したボズには素晴らしい先見の明があったということでしょう。

その昔、ロンドンで初めて聴いたときも感じましたが、この「ローン・ミー・ア・ダイム」の演奏は本当にすごい。日本ではもっぱらAORというイメージが強いボズですが、決してそれだけではありません。バックボーンにある、このブルージィな感覚をぜひ聴いていただきたいと思います。


[Coming Soon]

  • 2014 1/8 wed. ~ 1/9 thu.(Blue Note Tokyo)
  • 2014 1/10 fri. & 1/11 sat.(COTTON CLUB)

VOLCÁN

featuring GONZALO RUBALCABA, GIOVANNI HIDALGO, HORACIO “EL NEGRO” HERNANDEZ & ARMANDO GOLA

ゴンサロ・ルバルカバ率いる新ユニットに高まる期待

さて、今回僕がお薦めするライヴは、年明け早々にブルーノート東京コットンクラブでの来日公演が決定しているVOLCÁNです。この新しいグループは、ジャズ・ピアニストのゴンサロ・ルバルカバを筆頭に、ジョヴァンニ・イダルゴ(コンガ)、オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデス(ドラムズ)、ホセ・アルマンド・ゴラ(ベイス)の4人。ジョヴァンニだけがプエルトリコ出身で、彼以外はキューバの出身です。今日は彼らの新作アルバム『VOLCÁN』を聴きながら、その魅力を掘り下げてみましょう。

左から、オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデス、
ゴンサロ・ルバルカバ、ジョヴァンニ・イダルゴ、
ホセ・アルマンド・ゴラ

冒頭のタイトル・チューン「Volcan」からして、セローニアス・マンクの「エヴィデンス」を思わせるような、独特のシンコペーションがかっこいいですね。ビ・バップ的なジャズなんだけどすごくファンキーで、キューバ音楽ならではのパーカッションも入って、いろんな音楽が凝縮されてうねりを上げているよう。そこがグループ名“火山”の由来でしょうか。このアルバムでゴンサロは、アクースティック・ピアノはもちろん、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーも弾いていて、これがまたいいんですね。そして2曲目は「Volcan Durmiente」。スペイン語の“Durmiente”は“sleeping”だから“休火山”という意味でしょう。どの曲も、演奏が本当にいいですね。特にコンガが入ることでリズムが単調ではなくなって、押したり引いたり、微妙な緊張感が生まれています。全体的に品がよく、とても都会的な音楽とも言えそうです。

DISKUNION WORLD MUSIC DUW1001

ゴンサロ・ルバルカバはデビューしたときから、すごい力量を持ったピアニストであることはリスナーにも十分に伝わっていました。しかも、最初は力ずくというイメージが強かったんだけど、次第にそれだけではないこともわかってきました。ジャズ本来の持ち味とファンキーさ、さらに非常にリリカルな部分を持ち合わせているのがこの人の魅力です。そして、注目したいのがこのグループの編成で、メンバーにドラマーが参加していることです。キューバの音楽には、コンガやティンバレスなどのパーカッションは欠かせませんが、通常はドラム・セットが使われることはありません。オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスはすごく上手にキューバ音楽のノリに合ったドラムを叩きます。ジャズとラテン音楽の要素をユニークな感覚で組み合わせることを得意技とするプロデューサー、キップ・ハンラハンの作品などに参加していて日本でもお馴染みの素晴らしいドラマーです。そしてジョヴァンニ・イダルゴはラテン音楽界では超有名な凄腕のコンガ奏者です。そんな彼らがグループを組むわけですから、期待は十分。今日、アルバムを聴いてみたらもう、「おー!」って感じで(笑)。唯一知らなかったベーシストもよかったし、期待が間違いでないことがわかりました。1月のライヴでは、おそらくこれ以上のものが体験できるんじゃないでしょうか。彼らがVOLCÁNとしていつまで活動を続けるのかはわかりませんが、やっているうちに僕も観ておきたいと思っています。


東京・銀座の並木通りにあるLINN GINZA。今回のA Taste of Musicはこのカジュアルなショールームで、いま話題のネットワークオーディオの先駆けとして知られるリンのMAJIK DSMを中心としたシステムを試聴。ボズ・スキャッグズやVOLCÁNなどのCDをリッピングして高音質で楽しむことができた。

試聴したリスニング・システム:LINN MAJIK DSM(デジタルストリームプレーヤー+マルチインプット・プリメインアンプ)、LINN MAJIK 140(スピーカー)

あらかじめリッピングしたCDの楽曲データやスタジオマスター音源を、あのアルバムからこのアルバムへ、楽曲を次々に呼び出し意のままに再生できるのがネットワークオーディオの楽しさ。iPadにインストールされたアプリ「Kinsky」で簡単、快適に操作できる。

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