音楽には物語がある。
これはLINN のストーリー。

より良い音を望む一人の男が、40年以上にわたって挑戦を続ける。
それは、エンジニアにとって最も複雑な課題:「正確な音楽の再現」

美しいアイソレーション

1973年、アイバー・ティーフェンブルンには、幸せである理由がいくつもありました。人生の伴侶を射とめ、そして長い間夢に見た“究極のオーディオシステム”をついに手に入れたのです。彼にとっては、新居の家具よりもまずオーディオが最優先でした。

ところが何かが変でした。最上級であったはずの彼のシステムでは、両親の家のオーディオシステムほどの良い音が聴こえないのです。
ここから彼は一人のエンジニアとして、その理由の解明を始めました。

当時、オーディオに関心を持っている誰もが、オーディオにとってスピーカーが全てだと信じていました。より大きくて、いいスピーカーさえ購入すれば、雄大で素晴らしい音が奏でられると思っていたのです。

Ivor and the LP12 circa 1982
Original LP12 advert
Ivor demonstrating the LP12

アイバーとSondek LP12

アイバーは気が付きました。皆が間違っているということを。

スピーカーについてあれこれ実験しても大きな変化はありませんでした。ところがある時、彼がレコードプレーヤーをシステム(またはスピーカー)のある部屋から出すと音がはっきりと良くなりました。ケーブルを延ばし、プレーヤーを隣の部屋に設置すると、クリアで精密で豊かな…明らかな改善がみられたのです。

これこそが、アイバーに“ユーリカ!”(*)が訪れた瞬間でした。スピーカーから放たれた音が、レコードプレーヤーにフィードバックし、ソースシグナルに対して悪影響を与えていたことが解ったのです。
*アルキメデスが新発見をした際に叫んだと言われる言葉

アイバーがオーディオシステムで発見したこのことは、その後創業した会社でずっと受け継がれる事柄となります:ソースからより多くの音楽情報が引き出せるほど、音質は良くなる。システムの下流にある製品がどんなに優れていても、失ってしまった音を取り戻すことは不可能なのです。

伝説の誕生

アイバーにとって問題を特定するだけでは不十分、彼はそれを解決することを熱望しました。

解決への道は、レコードプレーヤーについてゼロから根本的に考え直すことでした。

アイバーが発表したターンテーブルは、周りにあった他のプレーヤーと似たように見えます。しかしながらそれらとは全くの別物でした。他のプレーヤーは、衝撃に耐えることだけを主眼に設計されていましたが、アイバーは様々な振動の影響を受けない設計を行いました。このことがレコードの溝から多くの音楽情報を引き出すために必要なことだったからです。

また彼は、並外れて静粛なターンテーブルの設計を行なっています。摩擦の影響なく定速回転する極めて高水準のスピンドルと軸受けの実現には、同じく精密エンジニアである父親の協力が助けになりました。この新しいベアリングと、振動(アコースティック)の影響を排除したサスペンション構造によって、レコードから最大限の情報をピックアップすることができるようになりました。

アイバーは、彼のターンテーブルがどんなオーディオシステムにおいても音質を改善できることを証明していきます。そして彼は「Sondek LP12 transcription turntable」と名付けました。
*Sondek = Sound Deck(音の甲板)、transcription(転写・変換)

革新的であったことは音質の改善だけではありません。Sondek LP12は品質アップグレードを継続していけるようにモジュラー方式としました。アイバーにはテクノロジーが進化するものであることが解っていました。そして、彼は来るべきテクノロジーの進化をLP12ユーザーが享受していけることを望んでいました。このことは、次の2つの事柄を発生させることとなります。一つは、音質に対するアイバーの情熱を共有する技術者たちをLINNに引きつけること、そしてもう一つは、ユーザーにとても大きなSondek LP12への愛着の気持ちを抱かせることとなったのです。なぜなら、1973年最初のモデルから、一人残らず全てのユーザーが、最新仕様にフルアップグレードができるターンテーブルになったのですから。

必然とも言える結果として、2016年英“What Hi-Fi” 誌は「Sondek LP12は、この40年で最も重要な製品の一つ」「史上最高に人気を得ているハイエンド・ターンテーブル」、英“Hi-Fi Choice”誌は「UKで今までに販売された中で最も重要なコンポーネント」、米“Stereophile”誌は「不朽の名作、革命者、偶像破壊者、真の勝者」と評しています。

今なお、私たちは社をあげて向上できる何かを探求し、そしてあらゆるLinn製品に組み立てたスタッフの名前を記入し続けています。

Archive image of an LP12 build process in the factory
Archive image of an LP12 record player being tested

今日まで、あらゆるLINN製品は、それを組み立てた個人の名前が付いています。

物事をより良くするために

Sondek LP12の船出は成功です。そして次なるアイバーのチャレンジは高い水準の生産を軌道に乗せることでした。常識的に最も効率的なやり方と言われる製造方法である、ライン生産をLinn工場の一角に早速準備しました。しかしながら、彼自身からと、日に日に高まるお客様からの要望に、質も量も追いつきません。

アイバーは、きっと良い方法があるに違いないと考えました。彼のチームを集め、そしてどんなやり方があるかを皆で見ながら考えるために、1台完成品を作って持ってきて欲しいと頼みました。出来上がるまでしばらく待とうと思っていると、生産責任者はあっという間に完成させて帰ってきました。

どうやったらそんなに早く組み立てられるんだ? アイバーは聞きました。

私一人で組み立てたんです。彼女は答えました。

アイバーは仰天しました。そのターンテーブルは、ゼロから一人で作られたのです。世界記録のスピードで。しかも完璧な出来栄えです。

私たちは、これ以上このミーティングを行う必要はない。とアイバーは、そのグループに言いました。答えが出たぞ!

これは初めてではありません。アイバーはまた常識が必ずしも正しくないことを発見したのです。つまりLinnが熟練のスタッフに、彼らの必要なもの全て –原材料、工具、測定機など- を揃え、適切な場所に配置できたら、生産ラインで作るよりよほど素早く、品質の良いものができるということです。

製作者は、成果に対して完全に責任を負い、完成させた製品に彼らの名前を入れます。こうすることで、製品完成度に関してそれぞれが誇りを持つことができます。

彼はそれを「シングルステージビルド」と名付け、以来Linnのビジネスの心臓部となりました。アイバーはこの生産方式を核として、目的に応じた工場を考えていったのです。

Linn製品一つ一つは、グラスゴー郊外で人の手によって組み立てられ、作業者のサインが入ることで完成します。

精密なエンジニアリングは録音スタジオから始まります

アイバーは、可能な限り多くの音楽情報をレコードの溝から抽出しようとターンテーブルの改良を続けました。「目的に応じた工場」という彼のコンセプトは、音楽再生のフルシステムを生産する企業になるというビジョンを実現していきます。いよいよLinnは、ターンテーブル、アンプ類、スピーカーを生産し、オーディオ再生の全行程に渡って音楽信号の管理と制御にオリジナルの能力を持つ企業となったのです。

しかしアイバーはさらに遠くまで見据えています。彼は、アーティストの口元からリスナーの耳までのグローバルリーダーにLinnをしたいと考えていました。そのために、Linnはレコード制作をする必要があると彼は感じました。一般的なレコードの音質は、満足いくものではありません。我々はカッティングレースを購入し、「音楽をより良い音で」という名の下に、今までなかったような精度でレコード盤を作り始めたのです。

同様にアイバーは考えます。レコーディングでももっといいやり方があるのでは? こうしてLinnは、レコーディングビジネスに取り組んでいくことになります。

The Blue Nile: A Walk Across the Rooftops album cover
Carol Kidd album cover

LINNレコーズの最初の作品

ブルー・ナイルとキャロル・キッド

アイバーは華々しい賞を獲得することを目的としたレコードレーベルを作りたかった訳ではありません。どう音楽が生み出され、録音されるのか、そしてオーケストラと指揮者、エンジニア、プロデューサー、録音機器などの関わり…、レコード制作全体への深い理解がLinnにとって大きな利益になると考えました。

Linnレコーズの最初の作品は、The Blue Nile「A Walk Across The Rooftops」とCarol Kiddの名盤「Debut」でした。それから私たちはロックやポップス、フォーク、クラシック、ブルースなどなど…、様々なジャンルのアーティストのアルバムをリリースしてきました。

発足以来、Linnレコーズは我々の製品設計がどうあるべきかという指針について大きな助けになっていきました。そしてLinn自身がそうであったように、テクノロジーが進化するに連れLinnも自問し始めます。「テクノロジーは音楽をよりよくできているだろうか?」

Linnレコーズにおいて、我々はレコーディング・テクノロジーの限界を可能な限り押し上げて来ました。1990年までに、デジタル技術を使ってCDをはるかに凌ぐクオリティの録音を開始。そして2007年、ついにスタジオマスター音源のダウンロード販売を世界で最初に行うレーベルとなりました。

またまたLinnは、世の流れに逆行します。ほとんどのデジタルミュージックは音質よりもデータサイズの小ささこそが大切で、CDよりも相当に悪い音楽データが流通していました。しかしLinnレコーズは、CDを大きく超える高音質のためにデジタルテクノロジーを使ったのです。

我々はインターネット回線が、まもなくその転送スピードでも安定性でも全てのご家庭にスタジオマスター音源を届けるに十分となることを認識していました。そして必然として、それを再生するための製品を開発します。これがKlimax DSでした。CDプレーヤーはCDを再生することに限定されますが、Klimax DSにこういった制約はありません。音楽はシルバーの円盤から来るのではなく、家庭のネットワークを経由してインターネット通信でやって来るのです。Klimax DSによって、音楽は物理的メディアの束縛から解かれることになったのです。

スタジオマスターのダウンロード配信を始めて3年後、我々はグラモフォン誌から名誉ある「レーベル・オブ・ジ・イヤー」を授与されます。これはどんなレコードレーベルにとっても大きな成果と言えるものですが、小さな独立レーベルにとってはとてつもなく大きな出来事でした。この賞は、Linnが行って来たレコーディングプロセス高音質化への献身と、オンライン高音質音楽配信の革新的な取り組みに対するものでした。

またLinnも想像していなかったことですが、このことがHi-Fi産業全体に衝撃を与えます。CDプレーヤーを葬ることになったのです。

The Linn Klimax DS Network Music Player

デジタルを再考する

我々は、デジタルミュージックは音をよくするためのものであって、悪くするものではないと考えています。スタジオにある音楽を、損失も縮小も干渉もなくそのままのクオリティーで届けることができます。つまり音楽をマイクからあなたの耳に届ける技術なのです。

いよいよLinnは、完璧な音源“スタジオマスター”と、その荘厳な192kHz/24bit音源を再生する世界最初のデジタルプレーヤー“Klimax DS” を手にしました。

私たちは、Linnにとって歴史的なCDプレーヤーであるCD12を含む、世界最高のCDプレーヤー達と比較し、Klimax DSの優れた音質を証明するため世界を飛び回りました。そんな時、当時技術部門のトップであったアイバーの実子ギラードは、あるイベントでひとりの紳士に尋ねられます…「CDに比べてこんなにKlimax DSの音が良く、ストリーミングによるデジタルオーディオが音楽の未来ならば、もうCDプレーヤーを買う必要なんてないですよね?」… ギラードはLinnに戻り、明白な方向性ではあるものの売り上げへのダメージは確実と心配される、思いきった決断をします:「我々はCDプレーヤーの生産をやめなければならない。“デジタルストリーミングこそ未来である”という明確かつ簡潔なメッセージをお客様に示すために。」

私たちは、Linnのビジネス全体にリスクを犯していることは分かっていました。しかしギラードは正しかったのです。彼のメッセージは我々のお客様と共鳴し、急激に新しいテクノロジーが受け入れられて行きました。2年も経たず、Klimax DSと新しく加わったDSファミリーの売り上げはCDプレーヤーのそれを大きく上回ったのです。

また、Sondek LP12がそうであるように、Linn DSは現在のテクノロジーであるというだけでなく未来のテクノロジーでもあります。“ソフトウェアをアップグレードしていく”というDSならではの特徴によって、新しいフォーマットへの対応、新しい機能の追加、継続的な性能の向上といった改良が、全てのオーナーに対して行われることになりました。

Linn DSは、単純に人々の音楽生活にスタジオマスターを連れて来たということではありません。我々が、もう一度音楽に恋をする機会を創造したのです。

音質向上への絶えざる関与

アイバーは70歳の誕生日を迎えましたが、これからもLinnは彼の生活の大きなパートを占め続けるでしょう。現在アイバーは、ギラードと彼のチームに任せ、日々の経営には関与していません。しかし会長として会社に残っています。

我々は、DSプレーヤーと並行して今もアイバーのターンテーブルを作り続けています。どんなオーディオシステムにおいても音質を改善できるものとして…。Linnは、ご家庭で楽しむ全ての音をよりよく奏でる、美しく、シンプルなHi-Fiシステムをつくっています。それらのシステムは、モジュラー式で、アップグレード可能で、人々の人生のために設計されるのです。

Linnの製品はここスコットランドで作られ、製品全てに製作者の名前が入れられます。ロボットによってではなく、人間の手によって組み立てられるのです。我々の目的型工場で見られるロボットは、熟練のオペレーターを助ける仕事をしています。我々は生産する全ての製品に誇りを持っています。その誇りが製品に入れられた名前に現れているのです。

私たちは、他のどの会社とも違います。独立した同族資本の会社で、このことは短絡的な決断を迫る外部の株主がいないということを意味しています。計画性を欠いた陳腐化ではなく、品質と長寿命を目指します。利益によってではなく、プライドに突き動かされているのです。私たちは顧客を喜ばせること、そして初めから変わらず我々が愛するもの=音楽に集中しています。

私たちは、40年以上音楽をよくして来ました。次の40年で私たちが何をするのか、ぜひ想像してみてください。

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