Archive for the ‘Story’ Category

リン・イグザクトに想う 山口 孝

 馬齢のみを重ねたような自らの人生を振り返るに、音楽とオーディオの不思議に
捉われたまま、知らぬ間に約半世紀が過ぎてしまいました。
 オーディオに情熱を傾けることは、すなわち音楽をすることと同義であるが故に、
昔の書生のような生真面目さで、今も変わらず精進しております。
 それでもやはり最も夢中というか、日々進歩を実感するような成長をしていたのは、
学生であった20歳の頃だと思います。オーディオに対してやることなすこと全てが、
音楽の再生のうちに多様な表情をみいだしては、そのたのしみとおもしろみに、
際限なくとりつかれていたあの幸福な時代だったと思います。
 それは、思いつくままにありとあらゆる実験をしたということ。このようなことは、
自分の納得のゆくオーディオ・システムを入手し、それを演奏することができるように
なった30歳以降は、全くしなくなったことです。
 この実験の中で絶後の強烈な印象として、鮮やかに記憶していることがあります。
それは、スピーカー・ケーブルの長さで、音はどう変化するかという、ありきたりの
好奇心からでした。
3mと1mと5cm。5cmとはカートリッジのリード線にヒントを得たのです。両端1cmずつ皮を
むき、片チャンネルだけのスピーカーにプリメインアンプと背中合わせにして継ぎます。
レンガと雑誌で高さを調節し、やっとのことでセットできたという具合。
 嗚呼、それは真に形容を絶する、無論今までに体験したことのない事象でした。
 その衝撃は、初めてルディ・バン・ゲルダーのモノ・オリジナル盤を聴いた時の
圧倒的な感動、征服感のようなものとは全く違います。圧倒的というよりも、何故か頭が
瞬時に空ろになるような感じです。同様の体験を20年後にすることになります。

 芸術の大革命イタリア・ルネッサンス期には、時代を超越するような多くの天才達が
現れました。その頂点がラファエロであり、ミケランジェロであり、ダ・ビンチです。
でも、ヨーロッパにいて知ったことですが、実は彼等以上に人気のある画家がおります。
その1人に、ピエロ・デッラ・フランチェスカがいます。日本ですでに彼の画集はみていました。
どの絵も独特な静謐の内に調和している。とはいえ私には、どの絵もそれぞれの人物描写
において、ほとんどの顔に表情がなく、みな目が点になっているようにみえるのです。
昔、彼の絵は正直わかりませんでした。
 1997年、フィレンツェに1年間滞在した折、フランチェスカの本物が多くある
アレッツォに行きました。夏のような秋の日射しの中、駅からのなだらかな坂の道を、
とぼとぼと登ってゆきました。その頂上の途中に聖堂があり、そこにピエロの有名な
フレスコ画があるのです。
 未完のファサードから中に入りました。目がその暗さになれるまで少々時間がかかり
ましたが、あらためて目をすえて、奥の後陣の壁面に描かれた絵の前に立った途端、
まるで糸を緩められたマリオネットの人形のように、腰がクシャンと折れたのです。
そう、ほぼ等身大にみえる人物の一人一人が、全て覚醒していることが瞬時に
分かったのです。それは、画集では想いも及ばぬ異界の風景でした。仏教的に言えば、
解脱している人達の前に、己の野心がくだかれ、腰が立たなくなったということです。
 それが、私のイクザクト体験です。

 20歳の私は、オーディオの未来は必ず、ケーブルレスの時代であり、今この音は、
音として音楽として整えられていないが、いつかそれが成った時オーディオにとって、
今までにない革命的地平が開かれると直感しました。
 そして、2007年リンDSのスタート。2013年以来、幾度かこのリン・イクザクト・システムを
聴かせて頂いて、それは確信となりました。現在、最新のカタリストDACを搭載した
フラッグシップ・スピーカーによるイクザクトを目の当たりにし、この非凡なる
オーディオ・システムの真価を、多くのオーディオを愛する方々に伝えなければ、
という想いにかられます。
  大変難しいことですが、人間は遂には芸術を、つまり音楽を理解することはできます。
音楽は耳ではなく精神できくものだからです。そして、オーディオとは耳を通した心できく
ものです。心とは、知性と感性、つまり想いという糸で織られたベールのようなものです。
そのベールの内に、精神とか魂とかいうものがあるのかもしれません。
 心は常に変化します。これが全ての苦悩の原因です。苦行なのです。今日は最高の演奏が
できたと思ったら次の日は最悪。心の変化がその原因です。音楽は変わらずにそこにある。
でもいつも心がちがうようにきいてしまう。ですから幻音を追いかける。その正体をつきつめる、
つきとめることこそが、いつしかオーディオという行為そのものになってゆきます。
 苦行は続きます。そういった、オーディオで音楽をきく日々の中、DSによるイクザクトに、
遂に私は出会いました。あの5cmのスピーカー・ケーブルの発見から約40年後、
この圧巻というべきリンの整えた音は、正しく次元の違うという表現をはるかに超えた、
オーディオにおける最高の境地、もうこの先はないと想わせる透明な世界です。

 東京の白寿ホールでのことです。
 非の打ち所のない演奏と、超弩級の録音で世界的な話題となり評価され、SACDと
ハイレゾ配信によってヒットした音楽の実演のコンサートでした。
 開演のベル。私の席は幸運にも、私のためだけに演奏家が用意してくれたような席で、
その演奏家の優美な動作から直接音、ホールに回り込んだ間接音まで、私を包み込むように
音楽がありました。SACDに甲乙つけがたい、その確実な演奏に、この演奏家の実力が
世界レベルを超えた独創性故に、真の芸術家であることを証明していました。静かに、
ふつふつと湧いてくる小さな喜びのまま前半が終わりました。
 ロビーでは人々が、ワインやアクアを手に小声で話しながら、ホワイエを楽しんでいます。
私は設えたイクザクト・システムと対合う、数少ない椅子に座ることができました。
ロビーは知らぬ間に、ざわめきから喧騒に近いそれになっておりました。
 その時なんと、イクザクトは先程のステージと同じ曲を、静かに演奏し始めたのです。
私の耳は、一瞬でその音に釘づけになりました。ロビーの騒音が大きくなればなる程、
まるでこまくにはりついてくるように、私にはきこえてきました。いや、魂にはりついてくるような
音楽に、私の身体から何かが離れ、羽毛のように空中を浮遊し、次第に上昇するのをみて、
体が動けなくなってしまったのです。
 その時の私を支配したものは、このイクザクトの音こそリアル・実在であり、
先ほどのステージの音がアンリアル・非実在なのだという真摯な確信でした。
この逆転、何ということだろう、何がどうなったのかとさえおもいました。
 後半を告げるチャイム。最後に残った私はおもむろにホールに戻りました。
演奏は変わらず、ミスなどあろうはずもないという程の立派なものでした。
でもその間中、私には真のリアル・真の実在は、先程のロビーのイクザクトだという
強烈な想いが、一時も離れることはありませんでした。

 そして、その深夜、リンジャパンの畏友にハガキを一筆します。
 「イクザクトに、無幻をみた」と。
 無幻とは、幻が無いということ。つまり、幻がある以上、本体があるはずです。
幻はその反射・影だということです。幻が無くなることによって、そこにあるのは本体、
つまり真なるもの。それがなんなのかは、私には表現する言葉がありません。
でも私の魂はみたのです。
 私にとってオーディオとは、遂に人間の本質、真実にまで肉薄してきました。
これぞ、現代・近未来のオーディオの最前線だと思うのです。
 今こそ、オーディオの真の黄金時代なのかと思います。

2018年正月吉日

Posted in Story | Comments Off on リン・イグザクトに想う 山口 孝

vol.06 羨ましすぎる音楽生活

音楽好きで、音質も気になる人、必読です。
既にTIDAL(タイダル)を使われて一月。
若手音楽ライター様のリポートが「羨ましすぎ」ます。

定額の音楽ストリーミングサービス、その実際の様子を知るにつけ、
これほどインターネットが普及し、あっという間に世界中の情報が手に入るようになった昨今、
TIDAL の上陸がますます待ち遠しくなってしまいます。

リスナーが支払う対価以上の聴く喜びをどんなふうにもたらしてくれるのか。

死蔵され、忘れ去られてしまう音楽作品よりも、
オンデマンドでアクセスできるライブラリからいつでも聴くことが出来た方が、
楽曲自体も、アーティスト自身もきっとシアワセになれるはず。

そう、聴き手のジンセーだって、音楽が変えてしまうのですから。
どうぞ冷静にほんの少し未来を考えてみてはいかがでしょうか。

「HiVi誌 TIDAL 1ヵ月実使用レポート」

Posted in Story | Comments Off on vol.06 羨ましすぎる音楽生活

vol.05 待ち遠しい、TIDAL

LINN DS が世に出た頃を思い返すと、文字通り隔世の感があります。
街を歩けば当たり前のように見受けられる、iPhone やスマホもまだ誕生していませんでした。
Digital Stream を製品ジャンル名として、発展、進化してきたLINN DS。
DSM ファミリープロダクトの充実や、EXAKT システムの登場。
ネットワークでつながることによって、陳腐化しないハードウエアの価値が
高い評価を獲得してきたことは、ご存じの通りです。
では、ソフトの方はどうか。

CD クオリティでのストリーミングサービス、TIDAL(タイダル)。
その実力と魅力について、必読の記事のご紹介です。
Linn Kazoo では既にライブラリとして扱われていることの意味と
使用感がレポートされています。

音楽が好きで、良い音で聴きたい。

そのシンプルな気持ちを最もスムーズに叶えてくれるストリーミングサービス。
一日も早く、ここ日本でも楽しめるよう、因襲を捨てて気持ちを一つにしましょう!

「HiVi誌 和田博巳の真・ハイエンドオーディオ宣言」

Posted in Story | Comments Off on vol.05 待ち遠しい、TIDAL

vol.04 MAKE THE DIFFERENCE

【アイソバリック方式】

スピーカーが戦う本当の敵に、 最も効果的な武器とは?

pic01-1

今も昔も、リアルな再生にあたって最も難易度の高い低音。自然界に肉薄するフルスケールの空間再現には、風の様に軽く、地球の様に盤石で、空の様に広々として、海の様に深い低音が必要です。

高い音に比べてたくさんの空気の量を「動かす」必要のある低音は物理的にとても大変なのですが、この仕事を遂行するため必死に働くドライブユニットの活動を妨げているのは、何と驚く事に実はスピーカーそのものです。 スピーカーの歴史を紐解くと… 裸のままのユニットでは、コーン紙裏側から発せられる逆相成分が表側に回り込むことによって、(主に低音の)キャンセリング(打ち消し合い)が起こってしまいます。これを避けるため、(できれば無限に)大きな平板にドライブユニットを付けることからスピーカーは始まりました。これでは設置場所の問題その他が発生するため、その後小型化させていくために平板を折り曲げて、ユニット裏側を完全に隠した箱型のキャビネットに取り付ける事になったのですが、ドライブユニットの平常動作である箱の外に出たり内に入ったりするモーションを最も邪魔しているのは、空間的に閉じられたキャビネットが生む内圧… つまりスピーカーそのものだったのです。

キャビネット内側から引っ張る敵と、内側から押す敵

箱に取り付けられたドライブユニットのコーン(振動部)が前に出ようとする時、箱の中の空気を広げながら前に出ます(減圧)。また、引っ込む時には逆に空気を縮める力(加圧)が必要です。つまりコーンの動作は、音楽信号に応じて前後にピストン運動をするとき、スピーカーキャビネットの「内圧」という見えない敵と戦いながら仕事を行わなければなりません。これは想像以上に重労働で、スピーカーは簡単には思ったような仕事をさせてもらえていないのです。これは、低い音ほど動かす空気が多くなるため、大きな問題となってしまいます。 この“スピーカー最大の敵への対策”こそが、1973年特許取得のLINNの「アイソバリック方式」なのです!!!

◎ 二つのユニットが協力して作業

アイソバリック方式は、まったく同一のユニットをタンデム駆動させ、見えない敵に対して対抗します。発音体としてはひとつ(ユニゾン)でありながら、2つのユニットを使う事で音楽再生と内圧への対抗に対して、“倍のモーター(パワー)”、“倍の剛性”で臨んでいます。これにより、最低域においても圧倒的なパワーと俊敏性を持って仕事ができるのです。

対称性の欠如による歪み

基本的にスピーカーユニットは前に発音するようにできているため、前方へと後方への運動に対して、形状と動作の対称性が考慮されていません。つまり外に向けての力と内に向けての力が均等でないため、簡単にひずみが起こってしまいます。

◎ FACE TO FACE マウント

LINN新型アイソバリックは、双子のドライブユニットを向かい合わせにして装着。ゼロポイントから前方と後方への動作にまったく差がなく、理想的なリニアドライブが可能です。当たり前ですが、二つのユニットは同一ユニットでなくては意味がありません。音楽信号に対してひずみを与えず、まったく無色透明でニュアンス豊か、超ハイスピードな低音をお楽しみいただけます。

ユニット動作で振られるスピーカー

高速で動作するユニットは、ニュートンの運動の第3法則「作用反作用の法則」により、スピーカー全体を揺すります。質量の大きい低音のユニットの動作ほどこの影響力は強く、揺すった結果全帯域の音を濁してしまいます。

◎ キャビネット底部のアイソバリックシステム

アイソバリックシステムの二つのドライブユニットは、キャビネットの底面に取り付けられるため、上下方向にピストン運動をします。重力による制動をうまく使い、スピーカー自身をふらつかせないこのマウント方式は、結果スピーカー全体のピュアリティーを高めているのです。

Posted in Story | Comments Off on vol.04 MAKE THE DIFFERENCE

vol.03 Made in Scotland

見知らぬ土地に思いを馳せること。

居ながらにして、時空を超えて音楽を楽しむことをかなえてくれるオーディオ・コンポーネント。それらが生産されている風土や、歴史的な事がらについて少し知るだけで、製品により一層の愛着が湧き、LINN の原動力の一端も感じ取ることができるでしょう。

メイド・イン・UK の表記があるLINN 製品は英国製です。これは全く正しい内容ですが、UK が文字通り国家の連合であり、LINN が「スコットランド」のメーカーであることも真実です。サッカーファンでしたら、それぞれ、イングランド代表、スコットランド代表チームが存在するものの、UK代表チームはあり得ないことは先刻ご承知の通りです。あらゆる情報が瞬時に世界を駆け巡るようになった21世紀の現在でも、日本との直行便が無く、移動には半日のフライトと乗換便が必須の場所はエキゾチシズムの対象にはならないとしても、やはり私達との確たる違いをそこに生きる人々にもたらしています。

大ブリテン島の北部に位置するスコットランドの面積は7万9千平方km、人口は509万人。北海道より少し狭いエリアに福岡県とほぼ同じくらいの人々が生活していることになります。ロンドンがあるイングランドは面積がその約1.5倍、人口は10倍の規模ですから、随分とコンパクトな陣容です。英国の地図上で最もくびれたあたりの東岸、北海に面する首都エジンバラから西へ車で小一時間。対岸に位置する人口70万余りの都市グラスゴーにLINNは居を構えています。独立心の強いスコットランド人とはいうものの、羊が悠々と草を食む丘にポツンと建った社屋でLINN の全てが機能していること自体が特筆されるべきかも知れません。音楽に対する敬意と、高品質、高音質実現への意志。大量生産、大量消費を前提としない製品作りの姿勢こそ、LINN の今日を支え、これからの高級オーディオを方向性正しく導くものです。進取の気性に富み、それを音楽再生の質的な向上のために活かし、ひいては暮らしを豊かなものにする。それは突然変異のようにLINN にもたらされたのではなく、ある種の必然としてグラスゴーから生まれたとも言えるのです。

歴史の教科書で誰もが産業革命のことは学んだことがお有りでしょう。その意義は置くとしても、オーディオとは切っても切れない縁がグラスゴーに存在しています。蒸気機関を発明し、アンプの出力の単位として、その名が残るほどの偉人、ジェームス・ワット(1736生)の住んでいた家がグラスゴーを流れるクライド河畔にあります。クライド川の河口付近は高緯度にもかかわらず不凍港として造船業が栄え、七つの海を乗り越えてグローバルな英国の拡張を推進するのに一役買うことになりました。LINN 創業者のアイバー・ティーフェンブルンが、「ジェームス・ワットのお蔭で、最も貧しかった国が豊かな国へと変わることができた」、と冗談交じりに口にすることがあるように、遠い国の遠い昔の出来事ではなくて、自分達の生まれた土地で始まった産業についての大転換が今に続く一つの流れとして捉えることができるスケールの大きさもスコットランドならではといえるでしょう。

オーディオや身の回りで日頃何気なく使っているモノと関わりがあるスコットランドに縁のある偉人たちを挙げてみましょう。

  • 潜水艦のエンジン等として今も採用されることのあるスターリングエンジンの生みの親、ロバート・スターリング(1790生)
  • 鍛造用の蒸気ハンマーを開発した、ジェームス・ナスミス(1808生)
  • ファクシミリを発明し特許を取得した、アレクサンダー・ベイン(1811生)
  • 磁束の単位に名を残す電磁気学の祖、ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831生)
  • 世界初の実用的な空気入りタイヤを開発した、ジョン・ボイド・ダンロップ(1840生)
  • 電話機を発明し米国へ転地した、アレクサンダー・グラハム・ベル(1847生)

テクノロジーを無自覚に信じることなく、音楽再生のクオリティ向上のために活用し続けてきたLINN にも、ハイエンドオーディオに大きな影響を与えてきた「初めて」の事例が多数存在します。

  • スピーカーユニットの連結駆動による低音再生方式、ISOBARIK(アイソバリック: 1973)
  • ダイレクトカップルド・トーンアーム ITTOK LVII(1979)
  • デジタルボリュームとソリッドステートスイッチを採用したプリアンプ、LK1(1985)
  • トランスポートとDA コンバータの同期接続可能なCD再生機、KARIK/ NUMERIK)(1992)
  • ドルビー・デジタル対応のトータル・シネマシステム、AV 51シリーズ(1996)
  • スイッチ・モード電源搭載のハイエンドパワーアンプ、KLIMAX SOLO(1999)
  • ミュージックサーバーを核にするマルチルームシステム、KNEKT KIVOR SYSTEM(2001)
  • オリジナルメカエンジン搭載のユニバーサル・ディスクプレーヤー、UNIDISK 1.1(2002)
  • ネットワーク・ミュージック・プレーヤー、KLIMAX DS(2007)
 

pic03

Posted in Story | Comments Off on vol.03 Made in Scotland

vol.02 HEAR THE DIFFERENCE

眠らせたままになっていませんか?

NINKAに秘められた驚くべき可能性

LINNのスピーカーシステムはアクティブ駆動することによりその秘められた真の実力を発揮させることができます。今回はその中で驚異的ともいえるロングランを誇るニンカを用いてLINNのアクティブ駆動についてご説明いたします。 アクティブ駆動というときっと多くの方が「手間がかかるのではないか?」「機械が増えてしまうのでは?」などと心配をされているのではないでしょうか? これからご説明する内容をご覧いただければ、そのような心配は無用ということをご理解いただけるでしょう。

スピーカーにはその能力の限界があるのでは?

その通りですが、プレーヤーの性能を向上させたり、アンプを交換したりすることで、再生音が変化することは周知の事実。つまり、測定値等のスペックでは見分けのつかない駆動系の微妙な差異もスピーカーを通じて聴ききわけることができます。同じスピーカーとは思えないほどに飛躍的な音質の向上を実現するスピーカーのアクティブ 駆動について、ここでは2ウェイのベストセラーモデルNINKAを例にとって説明いたします。

NINKAの成り立ちは?

NINKAは2000年に発表され、美しいプロポーションと類希な性能を両立する実力機としてロングランを続けるフロアスタンド型2ウェイ。トゥイーターを挟んで配置された2つのユニットは同相でパラレルに動作し、コーン型のユニットは中低域を、ドーム型のトゥイーターユニットは高域を受け持ち、低域から高域にいたるまで、全帯域を十全に再生するよう設計されています。パワーアンプから一組スピーカーケーブルを接続すれば、NINKAに内蔵された回路によって帯域は適切に分割され、優れた音楽再生ができるよう工場出荷時に設定されています。

パッシブ(PASSIV)?

NINKAに内蔵された帯域を分割する回路は通常ネットワークと呼ばれ、コイル(L)、コンデンサ(C)、抵抗(R)等の部品で構成されています。それらの素子は入力信号のエネルギーを消費し受動的に機能するため、パッシブ・クロスオーバーとも呼ばれます。ネットワークを経由してスピーカーシステムを駆動する方法の総称が“パッシブ”。NINKAには、高音質パーツを高厚導体の基板上にレイアウトした2ウェイ用のネットワーク(ハイパスおよびローパス)が内蔵されています。

シングルワイヤ(SINGLE WIRE)?、バイワイヤ(BI-WIRE)?

パワーアンプ出力端子とスピーカーシステムの入力端子を一組のスピーカーケーブルで接続するのがごく一般的なシングルワイヤリング。二枚構成の入力端子板の表裏を選択するだけで、ユニットとネットワークの関係が選択でき、ネットワーク上で中低域と高域を絶縁することができます。一台のパワーアンプからそれぞれの帯域別に2組のスピーカーケーブルを用いて接続するバイワイヤリングはウーファーの逆起電力に起因する歪を回避し、効果的なアップグレードをもたらします。さらに、もう一台パワーアンプが追加できれば、バイワイヤリングの効果をさらに伸長させるバイアンプ駆動まで発展することができます。

  アクティブ(AKTIV)?

バイアンプ駆動によるNINKAは目覚しいパフォーマンスを発揮しますが、パワーアンプとユニットの間にはネットワークが介在しています。受動素子で構成されたフィルターは音楽信号を消費することで機能し、微細な情報の損失や位相の回転を避けることはできません。いくら優れたパッシブネットワークといえどもそこを通ることによりパワーアンプから送られてくる音楽信号のおよそ30%以上が熱として消費されてしまいます。他方、アクティブ駆動とは、ラインレベルの信号をエレクトロニクスで理想的にフィルタリングし、パワーアンプを各帯域専用としてユニットを直結駆動する手法。ネットワークを経由せず、パワーアンプはユニットのボイスコイルに音楽信号を送り込むことが出来ます。

  アクティブ(AKTIV)?

バイアンプ駆動によるNINKAは目覚しいパフォーマンスを発揮しますが、パワーアンプとユニットの間にはネットワークが介在しています。受動素子で構成されたフィルターは音楽信号を消費することで機能し、微細な情報の損失や位相の回転を避けることはできません。いくら優れたパッシブネットワークといえどもそこを通ることによりパワーアンプから送られてくる音楽信号のおよそ30%以上が熱として消費されてしまいます。他方、アクティブ駆動とは、ラインレベルの信号をエレクトロニクスで理想的にフィルタリングし、パワーアンプを各帯域専用としてユニットを直結駆動する手法。ネットワークを経由せず、パワーアンプはユニットのボイスコイルに音楽信号を送り込むことが出来ます。

  システムが複雑になったり、設置が困難だったりするのでは?

帯域分割を受け持つエレクトロニクスである最新のアクティブ・クロスオーバーは、表面実装技術による非常にコンパクトなモジュールで、C-LINEのパワーアンプに搭載が可能。4チャンネルの“チャクラ“パワーアンプC4100、C4200ならば、バイアンプパッシブ駆動と全く同じたたずまいで、容易にアクティブ駆動に移行させ、NINKAの桁違いの可能性を開花させることができます。バイアンプ・アクティブ駆動の場合、トゥイーターを挟んで配置された2基のミッドバスユニットは一台のパワーアンプでパラレルに駆動されます。ということは、上下のユニットをそれぞれ単独のアンプでドライブすることも可能? そうです。アクティブモジュールとパワーアンプがもう一組、あるいは、C6100ならば左右に3チャンネルを振分けてトライアンプ・アクティブという究極のマルチアンプシステムまでスマートに発展させることができるのです。

  アクティブを体験するには?

アクティブ駆動についてご理解いただけましたか?しかしなにより実際ご体験いただかないことにはその真価を見出すことは難しいでしょう。LINNスピーカーシステムとC-LINEがデモンストレーションしてある販売店様にて、アクティブ駆動をご体験いただけます。また、アクティブ駆動の凄さを体験できるイベント等も随時企画してまいります。最新の情報につきましては、弊社サイトでご案内させていただきます。 ご自身の愛聴盤をお持ちになって、耳からウロコを落としてください。

LISTEN, and be there !

Posted in Story | Comments Off on vol.02 HEAR THE DIFFERENCE

vol.01 CHAKRA WHITE PAPER

BACKGROUND

「テクノロジーをどう位置づけるか」ということよりも、 最もふさわしい ところで使いこなすことが大事。

LINNは製品とビジネスのあらゆる局面において、さらに良いものを実現するべく努力しています。製品には最もふさわしいテクノロジーを取捨選択した上で取り入れ、部品やテクノロジーを実際に使いこなすことが、テクノロジーをどう位置づけるかということよりもはるかに大事であることを実証してきました。同じ製品を作るのに2つの設計アプローチがあるとすれば、全く異なる結果を生み出すことになります。

オーディオ史上、様々な優れたパワーアンプ設計技術がありました。あるものは出力素子に真空管を用い、また、バイポーラトランジスターであったり、MOSFETを使用したものもあります。動作も、A級、AB級のほかD級の良さを主張するメーカーもあり、様々な方式が試みられています。LINNは適材適所で最善の手法を選択すべきとの考えから、近年のパワーアンプはMOSFETを出力素子にしたモノリシックのものと、バイポーラトランジスタを使ったディスクリート構成のものがあります。それぞれは細部にわたって継続的な見直しや改善が施され、最新のモノリシックのアンプは、それ以前のバイポーラのものよりも音質的にも優れたものになっています。同様に、ディスクリート構成のアンプも、初期のものよりもはるかに大きな出力と優れた音質を実現しています。

MONOLITHIC CIRCUITRY-モノリシック(シングルチップ)回路- モノリシック(シングルチップ)回路は、高性能パワーアンプを実現する直結回路を設計する際、原理的には最適な方法です。必要とされるオーディオ回路を数ミリ四方のシリコンチップ上に実現できるモノリシックICは、信号経路を最短化し、それ自体干渉を受けにくい特徴を持ち、高速動作が可能です。ディスクリート構成では現実化の難しい複雑な回路設計を可能にし、デバイス偏差が極めて少なく、充分にコントロールされたハイパフォーマンスを引き出すことができるからです。 そうしたモノリシックチップを新たに設計し製造するには多大な先行投資が必要で、ハイエンドオーディオメーカーにとっては手が出せない価格になって跳ね返ってきます。結果としてチップはオーディオパフォーマンスが最優先でないような大量生産品向けのものになるのが通例です。しかしながらLINNは長年にわたって信頼できるチップメーカーと協働を続け、非常に優れた性能を備えたものを製造することができました。実現不可能な生産台数を前提とせずに、モノリシックの持つ可能性を最大限に活かせるようになったのです。

ただ、技術的挑戦でもあるモノリシックには、設計上妥協せざるを得ない不可避的な問題が残っています。そのうち最も顕著なのが出力電流に関するものです。回路の集積化とチップ構造により出力電流が制限され、概してハイパワードライブ時に耳障りな歪みが検知され易い傾向があります。また、アンプの堅牢性の点で、非常に良くできたディスクリート構成のアンプに比べ、モノリシック回路のアンプが見劣りすることがあります。

p01

CHAKRA | チャクラ

LINNのパワーアンプにおいては、シングルチップのものと大パワーが要求される機種でのパラレル使用も含め、モノリシックの使用は増加しています。“CHAKRA”は、LINNの5年間以上にわたる、モノリシックによる高性能ハイパワーアンプの進化、とりわけ業務用のモニタースピーカー328Aの開発中に着想されたパワーアンプ設計技術です。328Aを完成させるには、それまでレファレンスとしていたKLIMAX TWINを上回るパワーと回路の凝縮レイアウト等、総合的な性能向上が必要でした。モニター環境における過酷な条件化においても正確で余裕を持った再生を可能にするために開発がスタートしたのです。“CHAKRA”を活用したアンプは、一個のモノリシックICの周りに大サイズのバイポーラ・トランジスタを連結配置しブースター的に使用しています。このこと自体は新しいアイデアではありませんが、モノリシックICとバイポーラ・トランジスタとの動作移行に関してユニークな動作設定に成功し、LINNは特許を出願しています。2~3アンペア以下の小出力時、パワーアンプの全出力電流はモノリシックICから供給され、素子特有のハイスピードとリニアリティを最大限発揮します。一方、大出力時にはほとんどの出力電流はバイポーラから供給され、モノリシックICは瞬時に出力誤差を補正できるよう、定格内で充分な余裕を持った状態に保たれます。出力ショートのような極端な状況下においても、モノリシックICは許容出力以上を発生することなく、バイポーラも独立した回路により保護されます。このように、どのような再生状況においても、現実的に極めて安定して出力電流を発生させる事ができ、最低域レスポンスもDCに近い領域までフラットに獲得しています。最高の音楽再生を実現するよう設計されたLINNのスピーカーシステムのアクティブ・サーボ・ベース部には必須のもので、今後のパワーアンプに取り入れられるべき技術的達成です。“CHAKRA”によって、モノリシックを複数使用した最良の成果であったKLIMAX TWINよりも小さい面積で回路を構成でき、さらなる信号経路の短縮を実現。また、非常に高効率で、これまで製品化したどのLINNのパワーアンプより、発熱の少ないアンプが誕生しました。

p02

POWER SUPPLIES

CHAKRAは回路設計技術の飛躍的ステップアップであるとは言え、パワーアンプにおける電源部も総合的なパフォーマンスを大きく左右する極めて重要な構成要素です。LINNのお家芸ともいえるコンパクトなオーディオ専用のスイッチ・モード・パワー・サプライ(SMPS 電源)は従来の大型電源トランスに依拠した電源部よりも、変換効率やACラインを介したノイズの遮断性に優れ、極めてローノイズかつ安定して音声回路の動作を支えます。SMPS と“CHAKRA”テクノロジーの結合は高性能かつ高効率な“サイレントパワーアンプ”を創造するものです。

 

LINN ACTIVE TECHNOLOGY | アクティブ駆動

スピーカーシステムをアクティブ駆動することは、CHAKRAの開発中にも、パワーアンプ内蔵方式と外部アンプ駆動の双方から考慮されています。CHAKRAパワーアンプは、回路基板にアクティブモジュールをプラグインでき、アップグレードを容易に実現できます。スピーカーに搭載された各ユニット専用のアクティブモジュールで適切に帯域分割し、お部屋にあわせたレスポンスの微調整もでき、シンプルなシステムで最高度の性能を発揮させることができます。

 

CONCLUSION | 終りに

CHAKRAテクノロジーは、モノリシックによるリニアアンプ技術の利点を最大発揮させ、同時に弱点を克服するものです。高凝縮なチップでなければ実現できないスピードと緻密さに、優れた直線性をほこるバイポーラトランジスターの堅牢でスムースな特徴を加味し、いかなる聴取レベルにおいても正確でスピーカー駆動力に優れる“LINN SILENT POWER”を発生します。

 

APPENDIX : CLASS D AMPLIFIERS

付記:Dクラスパワーアンプ

CHAKRAはスイッチモード(断続時間モード)電源を備えたリニアアンプ(連続時間モード)技術です。

“デジタル”あるいは“Dクラス”アンプと呼ばれる、スイッチモード技術を利用したCHAKRAとは構成の異なる製品も存在します。デジタル技術を使ったアンプの呼び方の中にはある種の誤解に基づくものもあります。

CHAKRA等、従来のパワーアンプは連続的に変化する(リニア)出力段を備え、要求に応じて変化する出力電圧と電源部から供給される電圧の差異は熱として消費しています。Dクラスアンプは電源の全出力をオン・オフする超高速スイッチを利用しパワー損失を最小限にして、パルスの連なりとして出力を発生させ、出力端子の前段に置かれたフィルターで平準化した後にスピーカーを駆動します。Dクラスアンプの出力電圧は、スイッチング周波数、パルス密度、仕事率で決定されます。動作原理はスイッチモード電源(SMPS)と同様ですが、CHAKRAのようにSMPS電源でリニアアンプ回路を作動させる代わりに、Dクラスアンプは電源部の出力を最終音声出力として取り出すように機能させるところが異なります。

Dクラスアンプの概念自体は、SMPS(スイッチモード電源)同様、既に30年以上の歴史を有し、さほど難しいものではありませんが、ハイエンドオーディオの世界でDクラスアンプが突出した音質的評価を獲得するには至っていません。それは、充分吟味されたリニアアンプの繊細さをいまだ備えていないからです。しかしながら、マルチチャンネルシステムが普及し、メーカーはより軽量かつコンパクトで安価なパワーアンプの必要性に迫られ、新たな興味と調査をDクラスアンプに寄せています。LINNのスイッチモード電源技術とDクラスアンプ部の組み合わせは充分に魅力的なテーマですが、性能的な優位点が見出せる技術的な成熟こそ考慮されるべきです。言い換えれば、結果的にLINNの製品に期待される音質が得られなければなりません。少なくとも後10年は信頼性とパフォーマンスにおいてその水準に到達するのは困難でしょう。LINNはCHAKRAをさらに発展させ、今後も至上の地位に存在し続けるものにしていきます。

p03

CHAKRA(チャクラ):

サンスクリット語で「車輪」の意。身体の各内分泌腺を結ぶポイントにあるとされる、パワフルに回転している全部で7つあるエネルギースポット。

  PDF版はこちら
Posted in Story | Comments Off on vol.01 CHAKRA WHITE PAPER