本書は、JASジャーナル(日本オーディオ協会会報誌)に寄稿した文章に修正を加えたものです。』
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2007年秋の東京インターナショナルオーディオショウの小社ブースでの製品お披露目に先立ち、LINN が公式にデジタルストリームプレーヤーとしてKLIMAX DSを発表した際に最も戸惑いを禁じ得なかったのは、総輸入代理店である小社かもしれません。
それは次の二つの理由によってです。ひとつには、CDを凌駕する次世代オーディオとしてSACDをソフト、ハード両面からサポートしてきたLINN からメカレスのミュージックプレーヤーが発表されたことへの驚き。他方、ネットワークを活用するシステムアップ、つまり、音源を保存するハードディスクであるNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)、および音源やデータの取得と操作のために用いるPC 等サードパーティの製品を必要とする等、設置と販売に関する戸惑い。とりわけハイエンドオーディオの領域においてその時期LINN には、SACD再生可能なディスクプレーヤーの最高峰機種(つまりCD12の後継機種)発表の期待が寄せられていたこともあり、市場はもちろんのこと、プレスやほとんどの販売店様からホットな反応は得られませんでした。
そのような発売当時の状況下においては、いまとは違って、音楽配信によるハイレゾリューション音楽データの購入や再生がもたらす新たな音質水準についてのプロモーションも、DS の認知と販売にとっての有効な手立てとはならず、専らCD のリッピングデータの再生とディスクプレーヤーでの再生クオリティの比較によるデモンストレーションが唯一DS の存在価値を裏付けるものとして機能していました。
ただ、有り難いことに、1972年 の創業以来、「デモによる販売」すなわち、広告やカタログ等ではなく実際に音楽を再生することによってお客様に製品の良否を判断していただくことを継続してきたLINNの姿勢を再度DS のプロモーションにおいても徹底することによって、音質の良さを実感し最終的にユーザーとして製品を引き寄せて下さる方々が誕生していきました。 ディスクプレーヤーでは実現できなかったCDフォーマットの高音質再生。DS の市場への初期段階での導入は、図らずもLINN の創業時と同様、地道なデモンストレーションと音質のアピールというオーディオ製品のプロモーションの原点回帰と、エンドユーザーの高音質再生にかける熱意がシンクロできた現場で成果をもたらしました。
比較するものが無い新しい製品ジャンルの製品でしたが、音楽再生を通じて従来のオーディオシステムと融合させ新たな高みに到達することが可能であるという事実を積み重ね、LINN DS の存在を訴え続ける事ができたのです。 翌年春に姉妹機として登場したAKURATE DSも、KLIMAX DS 同様、入力端子にはETHERNETのみが採用され、製品ジャンルとしてのコンセプトを固持するものであり、DS の推進にかけるLINN の意欲を再認識させることになりました。
新たな製品ジャンルとしてコンセプト発表からほぼ一年後の2008年夏、DS のシリーズに新たな製品が2機種追加ラインアップされました。
MAJIK DSとSNEAKY MUSIC DSは、先行するハイエンド機種には無かった機能性が付加され、結果としてより多くの潜在ニーズが市場にあることを示し、LINN DS が着実に評価を高めてきたことを裏付けることになりました。
MAJIK DS はデジタル出力端子を装備し、既存のD/A コンバータとの接続が可能となり、CDトランスポートを代替するDS の新たな使用法を提案。その際にも、ディスクプレーヤーではできないライブラリ検索やプレイリストの作成等、DS ならではの操作性がもたらすメリットの認知も進行します。
また、SNEAKY MUSIC DS は音量調整とパワーアンプ機能を備え、左右ペアのスピーカーを用意するだけで、サウンドシステムが構成できるDS のオールインワンコンポーネントとして、エントリーレベルのユーザー層拡充が企図された製品として注目を集めますが、当時のネットワーク環境/一般認知などの問題から日本においては時期早々という状況で、海外市場と同様の展開までに至ることはありませんでした。
しかしながら、CDに代わる次世代オーディオのソースとして喧伝されたDVD-A が消滅し、メジャーレーベルからのSACDソフトのリリースも増加しない中、パッケージメディアの擁護者たらんとする保守的なオーディオファイルにも、ディスクメディアがデジタルデータのアナログ手法によるキャリアであることと、データ抽出とファイル管理に関してPCが持つ優位性と、LINN DS のシステムアーキテクチャこそが、音楽再生のプレーヤーとしてPCを使用するいわゆるPCオーディオとは一線を画し、高音質音楽再生を目的としてドライブメカの排除、ネットワークの活用を意図した極めて明快なプランに基くものであること等、デジタル音源に関する本質的な理解とデジタルストリームプレーヤーの可能性への興味が、その頃ようやく深まり始めたように思われます。
CD が登場してから約30年間、フォーマットを守り、ディスクプレーヤーも音質向上の様々な手立てを講じて今日に至るのはご承知の通りです。
MAJIK DSとSNEAKY MUSIC DSは、先行するハイエンド機種には無かった機能性が付加され、結果としてより多くの潜在ニーズが市場にあることを示し、LINN DS が着実に評価を高めてきたことを裏付けることになりました。
CD誕生の1982年から活動を始めたLINN RECORDS の存在もデジタルストリームプレーヤーの開発・製品化に大きく貢献するものです。 アナログ録音とLPレコードのカッティングから始まったその活動が、録音の現場にデジタルレコーダーが持ち込まれ、ハードディスクレコーディングにとって替わるのも時代の趨勢でした。レコーディングセッションのプレイバックやマスタリングの音質をフォーマットの制約無しにそのまま届けたい。演奏家、録音チームの当たり前の感情を可能にする手立てが音楽配信だったのです。 インターネットを通じてダウンロードで音源が入手できる。先鞭を切って世の中に広まってしまった音楽のダウンロードサービスが利便性のために圧縮音源を優先したため、音楽配信にはあまり歓迎されるべきではないイメージがつきまとっていましたが、LINN RECORDSがスタジオマスタークオリティ音源の音楽配信をスターとさせたのはDS発表の約1年前のことでした。 その後、ハイレゾリューション音声ファイルのダウンロードサービスは着実に増加の一途をたどり、メジャーレーベルの再編や衰退が続進するのとは逆に、制作者の意図に沿った録音と楽曲の販売のスタイルとして、特にクオリティーミュージックの世界で定着してきました。
録音の現場と後処理のプロセスに携わり、デジタルデータの特質を最大活用する音楽配信と、フォーマットの制約を受けずピュアな音楽再生を可能にするデジタルストリームプレーヤーとして、LINN DSとLINN RECORDSの活動に当初から備わっていた特質に再度注目する動きが出てきました。
ステレオレコードが世に出てから15年後の1972年に創業したLINN がCDの登場後15年を経てCD12 という伝説的名機を誕生させ、その10年後にKLIMAX DS というデジタル音声ファイルに特化したミュージックプレーヤーを発表。アナログ音声の符号化とコンピュータの進化、家庭内インフラの整備を考慮すれば、機は既に熟していたと言えるでしょう。
2009年の半ばにDSのファームウエアが一新されました。CARA(カーラ)というファミリーネームのソフトウエア群によって、操作ソフトの視認性や操作性が格段に向上すると同時に、ネットワーク上での動作の安定性、さらには音質の向上も伴い、余程のPCアレルギー(トラウマ?)でもない限り、LINN DSが一層ユーザーフレンドリーなオーディオ機器としてご利用いただけるようになり歓迎されました。 さらに同年秋には、DSのプレーヤー機能とデジタル・アナログの外部入力を備えたプリメインアンプを一体化した姉妹機、MAJIK DS-I、SEKRIT DS-Iを発表(このタイミングでSNEAKY MUSIC DSは販売完了)。DS のソース機器としての優秀性とコンパクトで機能性の高いLINN エレクトロニクスを合体し既存の製品ジャンルでは括れない機種でありながら、発表以来多くの注目を集めているのは昔日の面影がありません。 LINN は2009年11月20日に、すべてのデジタルディスクプレーヤーの生産を2009年末をもって完了する旨の正式発表をし、結果としてLINN DS が完全にテイクオフしたことを宣言しました。我国の市場においても、LINN から新たにディスクプレーヤーが登場することが無くなったことを嘆く声はほとんど寄せられず、むしろ、LINN DSが今後のデジタル音楽再生の確固たる存在となることは、既存のDSユーザー様には満足と安心を与え、予備群たるオーディオファイルには後押しと再注目の契機として捉えられました。 デジタルストリームプレーヤーとしての機能の絞込みと、ハイエンドクオリティからスタートしたLINN DS が、ETHERNET 入力しかない、ハードディスクを内蔵していない、ドライブメカを内蔵していない、等々、できないことを指摘されながら冷遇されていたにもかかわらず、そのクリアーなビジョンと音楽をより良い音で聴きたいという真摯な情熱に応えることのできる完成度を備えていればこそ、今日の状況を迎えることができたのです。
加えて、ネットワーク経由でソフトウエアをアップグレードすることによって、対応音声ファイルの拡張や、使い勝手の更新、音質の向上を計ることができる製品コンセプトのメリット。LINN DSの3年間は、ハードウエアの性能的到達点が高ければ高いほど容易に陳腐化するものではなく、音楽の価値自体が、製品の存在理由を証明し、少しずつしかし着実に賛同者を獲得するという、優れたオーディオ製品がこれまで辿ってきたのと同じことがデジタルオーディオの世界にもあてはまることを物語っているのです。
2009年の半ばにDSのファームウエアが一新されました。CARA(カーラ)というファミリーネームのソフトウエア群によって、操作ソフトの視認性や操作性が格段に向上すると同時に、ネットワーク上での動作の安定性、さらには音質の向上も伴い、余程のPCアレルギー(トラウマ?)でもない限り、LINN DSが一層ユーザーフレンドリーなオーディオ機器としてご利用いただけるようになり歓迎されました。
さらに同年秋には、DSのプレーヤー機能とデジタル・アナログの外部入力を備えたプリメインアンプを一体化した姉妹機、MAJIK DS-I、SEKRIT DS-Iを発表(このタイミングでSNEAKY MUSIC DSは販売完了)。DS のソース機器としての優秀性とコンパクトで機能性の高いLINN エレクトロニクスを合体し既存の製品ジャンルでは括れない機種でありながら、発表以来多くの注目を集めているのは昔日の面影がありません。 LINN は2009年11月20日に、すべてのデジタルディスクプレーヤーの生産を2009年末をもって完了する旨の正式発表をし、結果としてLINN DS が完全にテイクオフしたことを宣言しました。我国の市場においても、LINN から新たにディスクプレーヤーが登場することが無くなったことを嘆く声はほとんど寄せられず、むしろ、LINN DSが今後のデジタル音楽再生の確固たる存在となることは、既存のDSユーザー様には満足と安心を与え、予備群たるオーディオファイルには後押しと再注目の契機として捉えられました。 デジタルストリームプレーヤーとしての機能の絞込みと、ハイエンドクオリティからスタートしたLINN DS が、ETHERNET 入力しかない、ハードディスクを内蔵していない、ドライブメカを内蔵していない、等々、できないことを指摘されながら冷遇されていたにもかかわらず、そのクリアーなビジョンと音楽をより良い音で聴きたいという真摯な情熱に応えることのできる完成度を備えていればこそ、今日の状況を迎えることができたのです。
加えて、ネットワーク経由でソフトウエアをアップグレードすることによって、対応音声ファイルの拡張や、使い勝手の更新、音質の向上を計ることができる製品コンセプトのメリット。LINN DSの3年間は、ハードウエアの性能的到達点が高ければ高いほど容易に陳腐化するものではなく、音楽の価値自体が、製品の存在理由を証明し、少しずつしかし着実に賛同者を獲得するという、優れたオーディオ製品がこれまで辿ってきたのと同じことがデジタルオーディオの世界にもあてはまることを物語っているのです。