今も昔も、リアルな再生にあたって最も難易度の高い低音。自然界に肉薄するフルスケールの空間再現には、風の様に軽く、地球の様に盤石で、空の様に広々として、海の様に深い低音が必要です。
高い音に比べてたくさんの空気の量を「動かす」必要のある低音は物理的にとても大変なのですが、この仕事を遂行するため必死に働くドライブユニットの活動を妨げているのは、何と驚く事に実はスピーカーそのものです。 スピーカーの歴史を紐解くと… 裸のままのユニットでは、コーン紙裏側から発せられる逆相成分が表側に回り込むことによって、(主に低音の)キャンセリング(打ち消し合い)が起こってしまいます。これを避けるため、(できれば無限に)大きな平板にドライブユニットを付けることからスピーカーは始まりました。これでは設置場所の問題その他が発生するため、その後小型化させていくために平板を折り曲げて、ユニット裏側を完全に隠した箱型のキャビネットに取り付ける事になったのですが、ドライブユニットの平常動作である箱の外に出たり内に入ったりするモーションを最も邪魔しているのは、空間的に閉じられたキャビネットが生む内圧… つまりスピーカーそのものだったのです。
キャビネット内側から引っ張る敵と、内側から押す敵
箱に取り付けられたドライブユニットのコーン(振動部)が前に出ようとする時、箱の中の空気を広げながら前に出ます(減圧)。また、引っ込む時には逆に空気を縮める力(加圧)が必要です。つまりコーンの動作は、音楽信号に応じて前後にピストン運動をするとき、スピーカーキャビネットの「内圧」という見えない敵と戦いながら仕事を行わなければなりません。これは想像以上に重労働で、スピーカーは簡単には思ったような仕事をさせてもらえていないのです。これは、低い音ほど動かす空気が多くなるため、大きな問題となってしまいます。 この“スピーカー最大の敵への対策”こそが、1973年特許取得のLINNの「アイソバリック方式」なのです!!!
◎ 二つのユニットが協力して作業
アイソバリック方式は、まったく同一のユニットをタンデム駆動させ、見えない敵に対して対抗します。発音体としてはひとつ(ユニゾン)でありながら、2つのユニットを使う事で音楽再生と内圧への対抗に対して、“倍のモーター(パワー)”、“倍の剛性”で臨んでいます。これにより、最低域においても圧倒的なパワーと俊敏性を持って仕事ができるのです。
対称性の欠如による歪み
基本的にスピーカーユニットは前に発音するようにできているため、前方へと後方への運動に対して、形状と動作の対称性が考慮されていません。つまり外に向けての力と内に向けての力が均等でないため、簡単にひずみが起こってしまいます。
◎ FACE TO FACE マウント
LINN新型アイソバリックは、双子のドライブユニットを向かい合わせにして装着。ゼロポイントから前方と後方への動作にまったく差がなく、理想的なリニアドライブが可能です。当たり前ですが、二つのユニットは同一ユニットでなくては意味がありません。音楽信号に対してひずみを与えず、まったく無色透明でニュアンス豊か、超ハイスピードな低音をお楽しみいただけます。
ユニット動作で振られるスピーカー
高速で動作するユニットは、ニュートンの運動の第3法則「作用反作用の法則」により、スピーカー全体を揺すります。質量の大きい低音のユニットの動作ほどこの影響力は強く、揺すった結果全帯域の音を濁してしまいます。
◎ キャビネット底部のアイソバリックシステム
アイソバリックシステムの二つのドライブユニットは、キャビネットの底面に取り付けられるため、上下方向にピストン運動をします。重力による制動をうまく使い、スピーカー自身をふらつかせないこのマウント方式は、結果スピーカー全体のピュアリティーを高めているのです。