vol.01 CHAKRA WHITE PAPER

BACKGROUND

「テクノロジーをどう位置づけるか」ということよりも、 最もふさわしい ところで使いこなすことが大事。

LINNは製品とビジネスのあらゆる局面において、さらに良いものを実現するべく努力しています。製品には最もふさわしいテクノロジーを取捨選択した上で取り入れ、部品やテクノロジーを実際に使いこなすことが、テクノロジーをどう位置づけるかということよりもはるかに大事であることを実証してきました。同じ製品を作るのに2つの設計アプローチがあるとすれば、全く異なる結果を生み出すことになります。

オーディオ史上、様々な優れたパワーアンプ設計技術がありました。あるものは出力素子に真空管を用い、また、バイポーラトランジスターであったり、MOSFETを使用したものもあります。動作も、A級、AB級のほかD級の良さを主張するメーカーもあり、様々な方式が試みられています。LINNは適材適所で最善の手法を選択すべきとの考えから、近年のパワーアンプはMOSFETを出力素子にしたモノリシックのものと、バイポーラトランジスタを使ったディスクリート構成のものがあります。それぞれは細部にわたって継続的な見直しや改善が施され、最新のモノリシックのアンプは、それ以前のバイポーラのものよりも音質的にも優れたものになっています。同様に、ディスクリート構成のアンプも、初期のものよりもはるかに大きな出力と優れた音質を実現しています。

MONOLITHIC CIRCUITRY-モノリシック(シングルチップ)回路- モノリシック(シングルチップ)回路は、高性能パワーアンプを実現する直結回路を設計する際、原理的には最適な方法です。必要とされるオーディオ回路を数ミリ四方のシリコンチップ上に実現できるモノリシックICは、信号経路を最短化し、それ自体干渉を受けにくい特徴を持ち、高速動作が可能です。ディスクリート構成では現実化の難しい複雑な回路設計を可能にし、デバイス偏差が極めて少なく、充分にコントロールされたハイパフォーマンスを引き出すことができるからです。 そうしたモノリシックチップを新たに設計し製造するには多大な先行投資が必要で、ハイエンドオーディオメーカーにとっては手が出せない価格になって跳ね返ってきます。結果としてチップはオーディオパフォーマンスが最優先でないような大量生産品向けのものになるのが通例です。しかしながらLINNは長年にわたって信頼できるチップメーカーと協働を続け、非常に優れた性能を備えたものを製造することができました。実現不可能な生産台数を前提とせずに、モノリシックの持つ可能性を最大限に活かせるようになったのです。

ただ、技術的挑戦でもあるモノリシックには、設計上妥協せざるを得ない不可避的な問題が残っています。そのうち最も顕著なのが出力電流に関するものです。回路の集積化とチップ構造により出力電流が制限され、概してハイパワードライブ時に耳障りな歪みが検知され易い傾向があります。また、アンプの堅牢性の点で、非常に良くできたディスクリート構成のアンプに比べ、モノリシック回路のアンプが見劣りすることがあります。

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CHAKRA | チャクラ

LINNのパワーアンプにおいては、シングルチップのものと大パワーが要求される機種でのパラレル使用も含め、モノリシックの使用は増加しています。“CHAKRA”は、LINNの5年間以上にわたる、モノリシックによる高性能ハイパワーアンプの進化、とりわけ業務用のモニタースピーカー328Aの開発中に着想されたパワーアンプ設計技術です。328Aを完成させるには、それまでレファレンスとしていたKLIMAX TWINを上回るパワーと回路の凝縮レイアウト等、総合的な性能向上が必要でした。モニター環境における過酷な条件化においても正確で余裕を持った再生を可能にするために開発がスタートしたのです。“CHAKRA”を活用したアンプは、一個のモノリシックICの周りに大サイズのバイポーラ・トランジスタを連結配置しブースター的に使用しています。このこと自体は新しいアイデアではありませんが、モノリシックICとバイポーラ・トランジスタとの動作移行に関してユニークな動作設定に成功し、LINNは特許を出願しています。2~3アンペア以下の小出力時、パワーアンプの全出力電流はモノリシックICから供給され、素子特有のハイスピードとリニアリティを最大限発揮します。一方、大出力時にはほとんどの出力電流はバイポーラから供給され、モノリシックICは瞬時に出力誤差を補正できるよう、定格内で充分な余裕を持った状態に保たれます。出力ショートのような極端な状況下においても、モノリシックICは許容出力以上を発生することなく、バイポーラも独立した回路により保護されます。このように、どのような再生状況においても、現実的に極めて安定して出力電流を発生させる事ができ、最低域レスポンスもDCに近い領域までフラットに獲得しています。最高の音楽再生を実現するよう設計されたLINNのスピーカーシステムのアクティブ・サーボ・ベース部には必須のもので、今後のパワーアンプに取り入れられるべき技術的達成です。“CHAKRA”によって、モノリシックを複数使用した最良の成果であったKLIMAX TWINよりも小さい面積で回路を構成でき、さらなる信号経路の短縮を実現。また、非常に高効率で、これまで製品化したどのLINNのパワーアンプより、発熱の少ないアンプが誕生しました。

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POWER SUPPLIES

CHAKRAは回路設計技術の飛躍的ステップアップであるとは言え、パワーアンプにおける電源部も総合的なパフォーマンスを大きく左右する極めて重要な構成要素です。LINNのお家芸ともいえるコンパクトなオーディオ専用のスイッチ・モード・パワー・サプライ(SMPS 電源)は従来の大型電源トランスに依拠した電源部よりも、変換効率やACラインを介したノイズの遮断性に優れ、極めてローノイズかつ安定して音声回路の動作を支えます。SMPS と“CHAKRA”テクノロジーの結合は高性能かつ高効率な“サイレントパワーアンプ”を創造するものです。

 

LINN ACTIVE TECHNOLOGY | アクティブ駆動

スピーカーシステムをアクティブ駆動することは、CHAKRAの開発中にも、パワーアンプ内蔵方式と外部アンプ駆動の双方から考慮されています。CHAKRAパワーアンプは、回路基板にアクティブモジュールをプラグインでき、アップグレードを容易に実現できます。スピーカーに搭載された各ユニット専用のアクティブモジュールで適切に帯域分割し、お部屋にあわせたレスポンスの微調整もでき、シンプルなシステムで最高度の性能を発揮させることができます。

 

CONCLUSION | 終りに

CHAKRAテクノロジーは、モノリシックによるリニアアンプ技術の利点を最大発揮させ、同時に弱点を克服するものです。高凝縮なチップでなければ実現できないスピードと緻密さに、優れた直線性をほこるバイポーラトランジスターの堅牢でスムースな特徴を加味し、いかなる聴取レベルにおいても正確でスピーカー駆動力に優れる“LINN SILENT POWER”を発生します。

 

APPENDIX : CLASS D AMPLIFIERS

付記:Dクラスパワーアンプ

CHAKRAはスイッチモード(断続時間モード)電源を備えたリニアアンプ(連続時間モード)技術です。

“デジタル”あるいは“Dクラス”アンプと呼ばれる、スイッチモード技術を利用したCHAKRAとは構成の異なる製品も存在します。デジタル技術を使ったアンプの呼び方の中にはある種の誤解に基づくものもあります。

CHAKRA等、従来のパワーアンプは連続的に変化する(リニア)出力段を備え、要求に応じて変化する出力電圧と電源部から供給される電圧の差異は熱として消費しています。Dクラスアンプは電源の全出力をオン・オフする超高速スイッチを利用しパワー損失を最小限にして、パルスの連なりとして出力を発生させ、出力端子の前段に置かれたフィルターで平準化した後にスピーカーを駆動します。Dクラスアンプの出力電圧は、スイッチング周波数、パルス密度、仕事率で決定されます。動作原理はスイッチモード電源(SMPS)と同様ですが、CHAKRAのようにSMPS電源でリニアアンプ回路を作動させる代わりに、Dクラスアンプは電源部の出力を最終音声出力として取り出すように機能させるところが異なります。

Dクラスアンプの概念自体は、SMPS(スイッチモード電源)同様、既に30年以上の歴史を有し、さほど難しいものではありませんが、ハイエンドオーディオの世界でDクラスアンプが突出した音質的評価を獲得するには至っていません。それは、充分吟味されたリニアアンプの繊細さをいまだ備えていないからです。しかしながら、マルチチャンネルシステムが普及し、メーカーはより軽量かつコンパクトで安価なパワーアンプの必要性に迫られ、新たな興味と調査をDクラスアンプに寄せています。LINNのスイッチモード電源技術とDクラスアンプ部の組み合わせは充分に魅力的なテーマですが、性能的な優位点が見出せる技術的な成熟こそ考慮されるべきです。言い換えれば、結果的にLINNの製品に期待される音質が得られなければなりません。少なくとも後10年は信頼性とパフォーマンスにおいてその水準に到達するのは困難でしょう。LINNはCHAKRAをさらに発展させ、今後も至上の地位に存在し続けるものにしていきます。

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CHAKRA(チャクラ):

サンスクリット語で「車輪」の意。身体の各内分泌腺を結ぶポイントにあるとされる、パワフルに回転している全部で7つあるエネルギースポット。

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