谷崎潤一郎の随筆 「陰翳礼讃」 。1930年代、電灯がろうそくの明かりにとって変わり、影が消えゆく空間のあり方に一石を投じた(無駄な抵抗?)名著ですが、高度成長期に入ると追い打ちをかけるように蛍光灯が普及し更に平面的な光が家庭を席巻してします。太陽の光は、人の血圧を上昇させ、日が暮れれば血圧は下がり脳が弛緩して眠くなりリラックスします。折角、仕事から解放され落ち着いて音楽を楽しむのですから、ゆったり寛いだ気分で音楽とオーディオのデザインを楽しんでみませんか?
以下、私事で恐縮ですが・・・。愛用している照明のひとつに、1924年にバウハウスのウィルヘルム・ワーゲンフェルト&カール・ヤコブ・ユッカーがデザインしたバウハウスランプWG24が有ります。これが世に出た一時代前のアール・ヌーボー等の芸術的な一点モノではなく、工業化という社会の流れの中で新しい価値観と完全な量産化を90年前!に実現しています。ガラスと金属という無機質な素材を円と円柱だけで構成しながら、和洋を問わず如何なる空間にも無駄な主張をせずに溶け込ませることができる懐の深さがあります。
Klimaxシリーズの滑らかにアルマイト処理されたアルミブロックの表面は、蛍光灯の下では気が付き難いのですが、薄明りにおいては、線と弧が織りなす綾が視線の移ろいに応じて微妙に表情を変えます。毎晩、飽きもせずに眺めながら「今日もアリガト」とついつい思ってしまいます。
それらが並んだ写真を見ると、第3代校長のミース・ファンデル・ローエの名言「God is in the detail」(神は細部に宿る)、「Less is more」(より少ないことは、より豊かなこと)というモダニズム建築のコンセプトが正に凝縮されていると思えてきます。バウハウス初代校長のワルター・グロピウスも愛用していたようで、校長室の古い写真にも鎮座しているのが発見できます。
人の五感である、「聴覚」「視覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」。いずれもが形の無いものを感じ取る大切なセンサーです。形の無いものほど、私たちにとって真に大切なものになり得るのではないでしょうか。お気に入りのランプを探し、少し明かりを落してオーディオ&音楽を楽しんでみませんか?気になる音質だって、きっとプラシーボ効果だけのアクセサリーより、安価で効果絶大!?です・・・ね。
t.k.