とてつもない鉱床が出来した。
Xenakis: IX (Linn Records CKD 495) がそれだ。
待ちに待ったKUNIKO の第三作がリリースされる。
本作でクセナキスに初めて出会うリスナーは幸せだ。
なぜなら、望みうる最高の水準で直に「音楽」と対峙することになるからだ。選ばれた作品自体の価値、演奏家の名技性の高さ、それを余すところなくとらえた優秀な録音等、いずれもが瞠目すべきクオリティであることは論ずるまでも無い。
むしろ、刻々と流れゆく時間のなかで、収録された「音」は一つひとつ解き放たれ交じり合い、やがて、これまでどこにも存在していなかった一つの生命体として目の前で誕生してゆく様を見届けること。たとえ、「わたし」に備わったちっぽけな常識の範囲に適切なコトバが見当たらずとも、不思議ではない。比類ないとはそういうことだ。
「音楽」ということさえ、忘れてしまっても構わない。ただ、「音」によって突き動かされ、こころの中に何らかの感情が生起している自分が在ることに気付いた瞬間、新しい世界と出会うのだ。
モノが触れ合うと音が発生する。しかも素材固有の音色を伴って。それらは、木だろうか、皮、それとも、金属。
Xenakis: IX から聴こえてくる「音」の全ては、周到に選択された打楽器を操るKUNIKO によって生み出されたものだ。機械的なパルスではない、生き物のリズム。
静寂から突然噴出するエネルギー、鋭いアタックと緩やかに消え入る余韻が交響し、移ろい揺らぐ渦、KUNIKO は燃えている。不思議なハーモニーや複雑なリズムの組み合わせの中に、予測を超えて浮かび上がる光彩に満ちた旋律を発見している彼女の、打楽器奏者としてのパワーとデリカシーを兼備した演奏はもはや創造の領域に到達した稀有なものだ。
本作は、クセナキスのイマジネーションが今もって、新鮮で驚異的であることを改めて告げている。
瑣末な情報や知識は後にして、さあ、再生を始めよう。
作品へのKUNIKO の献身を思えば、リスナーはただひたすら聴く事に徹することだ。
感受性のダイナミックレンジを最大にして。
持ち合わせの評価軸は封印し、「音」の奔流に身をまかせれば、終いには手に汗握り、思わず快哉を叫んでいるだろう。
鈍ら刀でなければ、極めて高い鮮度の音楽体験をいくらでも掘り出せる宝物を作り上げたKUNIKO には脱帽だ。