うたの記憶

わたしとあなたを隔てるもの。
こことここではないどこか、ニホンとニホンでない場所であっても。
ヒトの思いやこだわりをよそに、日は昇り、星はまたたき、風はそよぎ、さざ波は寄せて返す。
闇夜に嵐が吹きすさび、突然大地が揺れ、海が割れることもあっただろう。

うた、歌、唄、唱、詩、ウタ。

わたしが創ったコトバではないけれど、
その音にリズムを感じたり、繰り返し節をつけたりしていたら、
いつのまにか、あなたも同じように口ずさむようになっている。

ニホン語でうたわれてきたうた。
人がそこにいる。
うたが聞こえてくる。

松田美緒という音楽家の旅。
うたに出会う。
それが素晴らしい紀行文として一冊の本に編まれ、
素敵なディスクが添えられた。

空気は音になり、コトバはうたになり、風に乗って遠くどこまでも。
息吹きは命の気配。

うたの記憶から、うまれたわたしのうた。
それをあなたのオーディオで聴ける幸せ。

m.f.

『クレオール・ニッポン
─うたの記憶を旅する』
松田美緒 著
アルテスパブリッシング 出版